群れて来る鳥・・・「ムクドリ」

 たしかに「ムクドリ」はよく群れます。「群れて来る鳥」が短略されて「ムクドリ」となったとする説が有力なようで、昔から「リャーリャー ギャーギャー ギュルギュル」と騒ぐ人(?)たちのことを「椋鳥」と呼んでうとましがる傾向があります。

 おれ いま群れてない 嫌うの

 クチバシから頭の線がシャープで、頬に銀色の斑が目立つせいか、どことなく金属的な印象を受けます。身近な鳥では、すこし大きめな「ヒヨドリ」と並んで、「たしかに鳥類は恐竜の子孫なんだな」と思わせる野鳥の筆頭でありましょう。ムクドリは、地面を歩くときには脚を前後させて、ノッシノッシとお尻を振るようにして歩くからなおさらです。 “群れて来る鳥・・・「ムクドリ」” の続きを読む

ホバリングできるか  「ヒヨドリ」2

 「ヒヨドリ」は前にも紹介したとおり、「ヒーヨ ヒーヨ」と鳴く中型の野鳥で、日本ではありふれておりますが、バードウォッチャーというものにはこだわりの強い人が多いとみえて、わざわざ外国から見に来ることがあるということです。
 全体に灰色に印象されますが、クローズアップしてみると、まるでシジミのように地味ながら美しい羽毛を持っています。全体にシャープで野性的。それにふさわしく、優れた飛翔力を見せます。

 このぐらいのいじわる なんでもないよ

 高みの枝からぐらりと地面に向ったかと思うと、すれすれで水平飛行に移り、翼を一閃二尖、それで高さをかせいだかと思うと、ぴたりと体側に畳み込み、身体をまっすぐにして弾丸のように距離をかせぎます。それを繰り返しますから、波状の飛跡を残します。 “ホバリングできるか  「ヒヨドリ」2” の続きを読む

カッコウと少年

 一羽のカッコウのヒナが巣立ちをしました。ゆっくりと、ワシやタカに似たシルエットを見せつけてあたりの小鳥たちをすくませながら、お父さんとお母さんが待っていた木立まで達し、ふんわりと枝に降り立って胸を張りました。
 誇らしく、幸せでした。けれどもそれは、白地にグレイの横縞の胴を立てた父親から、次のように告げられるまでの、ほんのわずかな間だけのことでした。

  ・・・お前はモズの巣の中に産み落とされた。卵からかえると、自分の背中を使ってモズのヒナどもを次々と放り出し、エサもなにも独り占めにして、この父と母にではなく、モズの夫婦に育てられた。あのしたり顔のモズの鼻をまたあかしてやったわ。われわれ一族がさずけられている生まれながらの知恵とはいえ、お前はよくやった・・・。

 幼いカッコウの全身がいきなりぞっと毛羽立ち、大きくふるえだしました。そういえば、はるか闇の奥から這い上がってくる幻があったのです。 “カッコウと少年” の続きを読む

墨絵のような端正 「ハクセキレイ」

 日本には「ハクセキレイ」「セグロセキレイ」「キセキレイ」の3種のセキレイがいます。どれもムクドリほどの大きさの胴に長い尾をつけていて、20㎝を超えるほどの大きさですから、中型の野鳥といえるのでしょうが、どれも墨絵を思わせるほどに彩りがシンプルであるためか、それほど大きいとは印象されません。まず「ハクセキレイ」に登場してもらいます。

 ハクセキレイです 目を通る黒い線が目印ですよ

 そして3種とも、調子を取るように短く鳴きながら軽々と波状に飛び、降り立ってからも、腰と長い尾をリズミカルに上下させています。3種を見分けるために要点を図にまとめてみましょう。 “墨絵のような端正 「ハクセキレイ」” の続きを読む

鞍馬天狗か黒頭巾 「セグロセキレイ」

「セグロセキレイ」は、ハクセキレイと同じように黒と白だけで装っています。その黒と白の案配がセグロセキレイでは一段と整理されており、古くは鞍馬天狗か黒頭巾、新しくは黒いメダシボウといったものを思わせるほどです。

 個での縄張り争いでは譲らぬよ

 日本に見られるセキレイの特徴をまとめた図を、ここでも挙げておきます。

“鞍馬天狗か黒頭巾 「セグロセキレイ」” の続きを読む

清流の麗人 「キセキレイ」

 「黒と白とで装うのは男性の特権でしてよ。あなた、素敵ね」と言われた男がいます。大英帝国が輝き渡っていたころ、一人の青年が艱難辛苦に耐え、粉骨砕身を続けて、海軍士官となり、艦長になり、艦隊司令官になり、貴族に列せられ、ついには伯爵令嬢と結ばれるという冒険物語の中の話です。
 言われたのは、軍装整えたサー・ホーンブロア艦長。言ったのはバーバラ令夫人。これを鳥に配すれば、艦長が「セグロセキレイ」、令夫人が「キセキレイ」ということになります。

 私も素敵じゃなくてはね

 ここでも、日本で見られる三種のセキレイの特徴をまとめた図を挙げておきます。 “清流の麗人 「キセキレイ」” の続きを読む

運転免許証物語

 自動車の運転免許を取得しようとしたら、普通の人はいわゆる「教習所」のやっかいになる。ちかごろは、「ドライビングスクール」などと名付けられていて、「スタンダードコース」「ウイークデイコース」「クイックコース」「トップコース」「学生プラン」「合宿プラン」「ペーパードライバーコース」などと分けられ、「料金定額制」「安心パック」などと、広いニーズに応えられるように工夫されている。
 さて、一人の若い娘が、生活のリズムからどうしても通常の「教習所」に通えないので、都合の付いた時に個人レッスンを重ねて、飛び込みで実地試験をパスすることを目論んだ。それも警視庁の「府中運転免許試験場」に殴りこむのだという。
 周囲はあやうんだ。特定のスクールに所属して、普段練習しているコースで受験することには見過ごせないメリットがある。車種とコースの配置に慣れている。教習所では「講習修了試験」と呼ぶらしいが、受験者が複数いるときには、同一のコースで為されることが多いから、順番がさがるにつれ、「ああ、あそこが要注意。あれがポイントだ」としだいに伝えられてくる。料金定額を一応うたってあるので、生徒たちがほどほどのところで実地試験をパスできるように、教習所側も有形無形の努力をする。 “運転免許証物語” の続きを読む

オオムラサキと木曾漆器・友

 中学二年の夏祭りの日、女神様をお迎えしようと鎮守の森への山道を登ってゆくと、同級生の須藤栄三郎君、通称ザブ君が坂を下ってくるのに出会った。
 ザブ君は「里彦」という屋号の旧い漆器製造元の息子で、絵が上手なのと、相撲がめっぽう強いということで、仲間から一目置かれていた。腰が据わっているのは、代々どっかりと坐って漆の芸にうちこんできた血筋のせいなのかどうか。色白のはにかみ屋で普段はでしゃばらなかったが、相撲を取るとなるとごうも容赦なく、したたかに相手を投げとばした。しばしば土俵際で得意技のウッチャリをかけられ、地面と顔とがまともに御対面ということになり、しばらく立ち上がれないことも私にはあった。
 ザブ君は胸の前の何かに気をとられながらゆっくりと下ってくる。声をかけると、おどろいたように顔を上げ、はずかしげに薄く笑い、親指と人差し指で摘まんでいるものの上にもう一方の手を被せて、それを私から守ろうとするような仕草をした。なにも隠すことはないだろうと腕に手をかけて覗き込んでみると、それは一匹の蝶であった。
 まず受けた印象は、蝶々というものはこんなに毛深い生き物だったかということである。ことに太めな胴回りから翅の根元のあたりにかけて、銀色の光沢をはなっている無数の毛でびっしりと覆われていた。ルビー色がかってつぶつぶした眼には、痛いとも苦しいとも表情が見えなかった。そのとき発条のように巻き込まれている口吻がするすると伸ばされ、しばらく小刻みに震えたかと思うと、再びするするとたたみこまれた。
「生きてるじゃないかよ」
「うん・・・」
 そのままでザブ君は指先に力をこめたから、胴体がつぶれる小さな音がして、口から緑色に濁った汁が溢れ出てきた。
「これ、スミナガシってやつなんだ。あんまり珍しいもんじゃないけど、捕まえるのは難しいんだよ」

スミナガシ キベリタテハ クジャクチョウ テングチョウ

 水の上に一滴の墨汁を落とすと、さっと表面に拡散して微妙に入り乱れた黒と白のだんだらを作る。その上に和紙をかぶせると、その模様をそっくり写しとることができる。この遊びを私たちは「墨流し」と言っていた。紺の光沢のある墨があり、それを点状に流すことができたなら、この蝶の羽根に似たような模様を得ることができるだろう。この瞬間まで私は、この世に蝶といえば、モンシロチョウとカラスアゲハだけしかないと思っていた。 “オオムラサキと木曾漆器・友” の続きを読む

赤と黒 燕尾服 「アカゲラ」

アカゲラ」は「ケラ」、つまりキツツキの1種です。前に紹介した「アオゲラ」と並んで、ヒヨドリほどの大きさ(24㎝)ですが、ヒヨドリの全身グレイといった印象に比べて、なつかしい小説「赤と黒」を想わせるように、この2色で大胆に装っております。いくらか標高のある環境を好むようで、このあたりでお目にかかるのに少し時間がかかりました。挨拶してもらいます。

お初 お目にかかります いっそとことんまで・・・

 桜が咲き初めたころ、落葉樹の林で「キョッ キョッ」という鋭い鳴き声が聞こえ、「ドドドド…」というドラミングを聞きました。けっこう待たされた出会いでしたが、会ってみれば、満足のゆくものでした。 “赤と黒 燕尾服 「アカゲラ」” の続きを読む

拘禁

 1968年(昭和43年)、私は府中刑務所の医務部に勤務していた。おりから学生運動の最後のたかまりがあり、多数の若者たちが逮捕され、首都圏の拘置所が満杯になったために、刑務所の「独居房」の一部が拘置区として転用されるという事態になったことがある。 “拘禁” の続きを読む