神戸連続児童殺傷事件 Ⅻ-Ⅰ 少年は変わり得る 処遇事例から

関東医療少年院の役割

 「・・・非行の重大性等により、少年の持つ問題性が極めて複雑・深刻であるためその矯正と社会復帰を図る上で特別の処遇を長期に必要とし、医療の介入が一義的に重要と判断される事案・・・」
 関東医療少年院はそのような特殊な事案にかかわり続けてきた。平成10年(神戸事件後)から同16年(筆者退官直前)までの7年間に限っても、そのうちでも際立って特異な対象のおよそ20例を他の少年たちに混じえて治療教育した。この期間を中心にして(この期間を外れている例もある)、筆者の印象に刻まれている事例のいくつかを挙げてみる。比較的スムースに社会復帰を果たせたものがほとんどで、この7年間の事案に限れば、今のところ、前回と近しい犯罪を再発させたという情報を得ていない。
 事例をまとめるにあったっては、プライバシーの保護のために、氏名、年齢、日時、場所などを伏せ、内容についても要点が保たれるぎりぎりのところまで改変した。そうしたからといって、本人の同意を得ることが不要となるわけでは原則ないが、それぞれに保護処分を終了した身分には、矯正側から連絡を取ろうとするのは不可であり、ついで、ここに事例として挙げるのは、少年たちが「自他への信頼の回復」ということに如何に苦しんで努力したかという実際を、敬意をもって報告したいからである。少年たちは変化し得るということを、少しでも多くの人に知ってほしいからである。本人が目を通すことがあったにしても、私どもの間に不信が生まれることはないと信じている。
  近く成人年齢が引き下げられることにともなって、18・19歳の年長非行少年たちは原則として保護的な処遇を受ける機会が得られないことになる。保護的な対応が第一義とであると判断された事案については、そのような処遇の選択ができるようにしてもらいたいと筆者は強く願っている。
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神戸連続児童殺傷事件 ⅩⅢ 何が台無しにしてしまったか

 

目次
Ⅰ 事件から21年後の報道
Ⅱ 何が台無しにしてしまったか
  1 SOSを見落としたこと
  2 審判決定書全文を開示したこと
3   検事調書を開示したこと
4 マスメディアが過熱しすぎたこと
5 手記出版前後の危機と錯覚
Ⅲ まとめ

Ⅰ 事件から21年後の報道

 平成30(2018)年5月下旬、事件後21年。当時11歳で命を奪われた男児の父親である土岐守氏が、新聞とNHKの取材に応じていた。氏の談話を要約すると次のようである。 “神戸連続児童殺傷事件 ⅩⅢ 何が台無しにしてしまったか” の続きを読む

こうわをきいて

 何十年か前のこと、私は「知的障害」を有する少年たちが集団で生活している施設に関与したことがあります。彼らの表出には、和太鼓のリズムのように心に響くものがあるように思うのです。いつまでたっても新鮮です。 “こうわをきいて” の続きを読む

献立 二食

 何十年か前のこと、私は「知的障害」を有する少年たちが集団で生活している施設に関与したことがあります。彼らの表出には、民話や民謡のように、あるいは和太鼓のリズムのように、心に響くものがあるように思うのです。いつまでたっても新鮮です。 “献立 二食” の続きを読む

日記

 何十年か前のこと、私は「知的障害」を有する少年たちが集団で生活している施設に関与したことがあります。彼らの表出には、民謡のように、あるいは和太鼓のリズムのように、心に響くものがあるように思うのです。いつまでたっても新鮮です。 “日記” の続きを読む

ほうどりかんそう :盆踊り感想

何十年か前のこと、私は「知的障害」を有する少年たちが集団で生活している施設に関与したことがあります。彼らの表出には、民謡のように、あるいは和太鼓のリズムのように、心に響くものがあるように思うのです。いつまでたっても新鮮です。 “ほうどりかんそう :盆踊り感想” の続きを読む

新しく入って

 何十年か前のこと、私は「知的障害」を有する少年たちが集団で生活している施設に関与したことがあります。彼らの表出には、民謡のように、あるいは和太鼓のリズムのように、心に響くものがあるように思うのです。いつまでたっても新鮮です。 “新しく入って” の続きを読む

メダカ

 数年前、メダカを十匹ほどいただいた。妻と親しくしているその家の奥さんは、水槽、睡蓮鉢、はては火鉢、発泡スチロールの箱などに水草を入れて、いたって無造作に飼っているように見えた。「増えすぎたから持ってってください」と言われる。半日陰ほどのところに放っておいて良いのだな、と思っていただいてきた。

   小さき目を据えて目高は居りにけり          高橋淡路女

 四・五日したら、小さな目で睨みあげ、「はやく水を換えてくれなきゃ困るじゃないか」と言われているような気がしだした。ならんで睨んでいる。 “メダカ” の続きを読む

少年院で学んだこと

       
 何十年か前のこと、私は「知的障害」を有する少年たちが集団で生活している施設に関与したことがあります。ワードプロセッサーいわゆる「ワープロ」の全盛時代でしたが、それらの操作でものをいうのはIQよりもセンスだなあ、としばしば感じ入ったものでした。少年の表出の一例を挙げてみます。ストトンと打ち込んだものだからこそ、いつまでも新鮮なのでしょうか。 “少年院で学んだこと” の続きを読む