私のアオダイショウ

 木曾谷はV字型に切り込まれているので、谷底の川に沿ってならんでいる民家は、どれも斜めの地盤を削るようにして作られている。私の家も、階段状に組み上げられた幾つかの土蔵の上に乗ったものだった。
 その土蔵の中に独りで入って行くなどという振る舞いは、幼い私にはおよびもつかないことのひとつだった。暗がりと奥深い棚の奥。すえた臭い。そこらへんが化け物の巣にちがいなかった。
 そう思い込んで一歩を踏みこめば、端々からもう、こちらをためている化け物どもの目のぬめりや、ひっそりした息づかいがわかる。生暖かい空気がかすかに揺らいでいるようである。いつだったか祖母が、「アオダイショウ」の見込みのありそうなのをひとつがい、お百姓に吟味してもらって蔵のなかに放したのを、私はちゃんと憶えていた。 “私のアオダイショウ” の続きを読む