こんなことがあってから60年以上が経ってしまっている。
大学1年の夏休み、私は木曾谷に帰っていたが、かつての同級生に学生などと付き合っている暇があるわけもなく、ひとりで夏の時間をもてあまし気味になっていた。
ある午後、土蔵のひとつにもぐり込んであたりを掻き回していると、戦時中に配給されたものか買わされたものか、「〇〇年式防毒面」というのが出てきた。防毒面というのはガスマスクの古い呼び方である。
帆布に厚く生ゴムがかけられ、前面に円形の厚いガラスがメガネほどの間隔ではめ込まれており、その下に鼻のための小さな隆起があり、さらにその下はカッパの口のように尖っていた。尖った先が捻じ込み式になっていて、半リットルほどの缶を装着するようになっていた。缶の中身は活性炭が主成分であるらしい。おそるおそる面を頭から被ってみると、顔が締め付けられるように張り付いてきた。次いで、缶の底にはめ込まれているゴム栓を抜いてみると、相当の抵抗があったがカビ臭い空気を吸い込めた。ゴム栓を元どおりにはめ込むと、ぴたりと呼吸ができなくなる。製作されてから二十年ちかくを経ているはずでいながら、なお気密性というか密着性は保たれていた・・・。 “防毒面” の続きを読む
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。