迷い出た魂を元に納める方法

 木曾の実家に「ミソ蔵」というのがあった。自家製の味噌を入れた大きな樽ばかりでなく、穀類をはじめ、ジャガイモ、サツマイモ、ショウガなどが貯蔵されていた。蔵というからには、扉は結構に頑丈なものだったが、ネズミが入り込む。人が出たり入ったりする時の隙を狙うらしい。
 祖母が、アオダイショウの見込みのありそうなのをひとつがい、お百姓に吟味してもらって、ミソ蔵のなかに放したのを知って、五歳だった私はわなないた。・・・
じっくり選ばれたアオダイショウが太ったネズミをたくさん食べたなら、二・三年のうちにオロチほどに大きくなるかも分からない・・・。

「なんてことを!」
 化け物は化け物を呼び合うそうだから、これは大変なことである。 “迷い出た魂を元に納める方法” の続きを読む

分かりの良い名前 「シロハラ」

 腹が白っぽく見えるというわけで「シロハラ」。地方によっては「コノハガエシ」とも呼ばれます。下に潜んでいる昆虫や木の実を探すために、木の葉をひっくり返すしぐさを繰り返すからです。両方とも、なるほど分かりは良いのですが、すこし素っ気ない名前のつけ方で申し訳ないような気がします。 “分かりの良い名前 「シロハラ」” の続きを読む

時は春 「ヒバリ」 Ⅰ

 「ヒバリ」という呼び方は「日晴」から転化したもののようです。ヒバリと聞くと、真っ先に高校(?)の教科書に載っていた詩を思い出します。

    春の朝(あした)

  時は春
  日は朝(あした)
  朝(あした)は七時
  片岡に露みちて
  揚雲雀(あげひばり)なのりいで
  蝸牛(かたつむり)枝に這ひ
  神、空に知ろしめす
  すべて世は事も無し “時は春 「ヒバリ」 Ⅰ” の続きを読む

朝の大移動 「カワウ」「ダイサギ」

 真夏の多摩川中流の日の出は5時20分前後です。
しらしら明けの頃、残った星がいくつか瞬いて見える頃はさすがに涼しく、たっぷり夜露を乗せた草々をかき分けながら岸辺に立つと、下流から上流へ、つまり東から西へ向かう「カワウ」と「ダイサギ」の大群が見られます。このとき、伸び切った雑草がけっこう硬く横に張り出しているので、これらに弾かれて川の中に転がり落ちないように注意する必要があります。 “朝の大移動 「カワウ」「ダイサギ」” の続きを読む

キアゲハの姉

 秋の彼岸の入りの日(9月20日)に、菜園に「ナバナ」と「ノラボウ」の畝を作りに出かけた。
 そこを曲がれば私の畑が見えるという小道の角、3輪の「ヒガンバナ」が燃え上がっているところで立ち止まった。ヒガンバナのせいではない。花の上で1頭の「キアゲハ」が羽を広げたり閉じたりしながら、身を震わすようにしていたからである。
 「アゲ科」の蝶は、写真に撮るのは運次第といったところがある。あちこちの木や草や花に興味を示しはするものの、止まることはあまりせずに、かなり速く広く飛び続けるからである。
 野鳥については「まず1枚を撮れ」とよく言われる。野鳥をファインダーに入れたとき「もうちょっと良いアングルを」と欲張っていると、相手がいなくなってしまうことが少なくない。チャンス。キアゲハについても通用しそうである。

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ハチドリのような蛾 「ホウジャク」

チョウはヒラヒラ トンボはスイスイ?

 蝶は「ヒラヒラ飛ぶ」といわれ、トンボは「スイスイ飛ぶ」といわれます。たしかに「アゲハチョウ科」を代表として、チョウの多くはひらひらと飛びます。
 が、どこにも変わり者は居るもので、ヒラヒラどころか「ブンブン」と飛ぶチョウも居ります。例えば「セセリチョウ」は、頭大きく、胴太く、ずんぐりしています。羽ばたきも速く、ブンブンにふさわしく素早く飛行します。
 ヒラヒラ派の代表として「キアゲハ」に、ブンブン派の代表として「イチモンジセセリ」に登場してもらって写真を見てください。対照的な特徴が一目瞭然です。 “ハチドリのような蛾 「ホウジャク」” の続きを読む

アメリカは癌に変身しつつあるのか

 2017(平成29)年12月、筆者は「ヒトの正体」というカテゴリーに「アメリカはどうして銃の規制ができないのか」「狂気の核」という二つの記事を書き、現職アメリカ大統領は、「巨大水爆」を凌駕するような衝撃を、わずか「140語のツイート」で続けざまに世界に発信することを発見(発明?)してしまった「自己愛性人格障害者」ではあるまいかとした。ドナルド・トランプ第45代アメリカ合衆国大統領が就任してから、およそ10ヶ月後のことであった。 “アメリカは癌に変身しつつあるのか” の続きを読む

清流の宝石 夜明けの決闘 「カワセミ」 Ⅱ

 多摩川中流の明け方。街灯などの光から遠ざかれば、けっこうな星空が見られるころ。
 東天の雲が刻々と色を増して輝き、やがて上流へ向かうダイサギやカワウの群が上空を通り過ぎます。雲と水鳥たちの様子に二度と同じものはないので、いくら岸辺に通っても飽きることがありません。

 そんな晩秋の朝、岸辺を離れようとしたとき、すぐ脇を定規で引いたように「ツー」と青い線が引かれていくのを2・3日続けて見ました。「カワセミ」です。   そのカワセミは、水面に張り出している灌木の一本の枝に、3日続けて止まりました。お気に入りの枝のようです。

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必殺の妖しさ 女郎? 上臈? 「ジョロウグモ」

 「ジョロウグモ」は、住宅街の中のちょっとした公園にもよく見られる馴染みの深いクモです。秋が深まるにつれてメスがぷっくりと大きくなり、黄と緑と鮮紅色の取り合わせが妖しい迫力を放つようになりますから、初めて見てギョッとし、名前を知ると生涯忘れない人が少なくないだろうと思います。

獲物よ かかれ

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私がボールを投げられないわけ

 その頃、フィールド競技で使われる「ヤリ」は一本の木を削って作られたもので、上手に投げて、正しく飛んで、金属のキャップを被せられた先端から土に刺さらないと、ともすると折れてしまうということがあった。もちろん、材質や値段などで差はあったであろう。
 私は陸上部に属していたが、トラック競技はからきしダメ。といって、フィールド競技の投擲なども苦手。部活の時間を勝手な気晴らしと考えていた。
 その年にも「東日本医科学生陸上競技大会」というのが新潟市の「白山公園」のグラウンドで催されるという通知が私たちの陸上部にも届いたときに、「槍投げ」と「円盤投げ」参加する者として、主将(同級生)が勝手に私の名前を書き入れてしまった。日頃、「ヤリには絶対に手を触れるな!1日で折られちゃうからな」ときつく言っていたのに、どういうことだったのだろう・・・。この同級生は、皆から「あいつは出世するぜ」とよく噂されていた。案の定、やがて医学部長になり、さらに学長になって大きな勲章をもらった。私に使ったような手を繰り返したものに違いない。 “私がボールを投げられないわけ” の続きを読む