川に生きる 「コイ」

 いきなりですが、下の写真の正体は何だと思いますか?
 大洋の中で、息継ぎをしているクジラかシャチのように見えませんか。

生き延びるための大脱走

 これは、多摩川に棲む「コイ」たちなのです。コイといえば「池の鯉」という明治時代からの唱歌があります。

  〽 出て来い 出て来い 池の鯉
    底の松藻のしげった中で
    手の鳴る音を 聞いたら来い
    聞いたら来い

 よどんだ水の中で、いたってのんびりと暮らしているコイの様子がユーモラスに歌われています。
 川に棲むコイたちは、そんなでは済まないことがあります。水面から背が盛り上がっているのは、クジラやイルカのように自分から水面に乗り出しているのではなく、すっかり浅くなってしまった川底から空中に押し上げられているのです。それも、これまで棲んでいた川の傍流の池のような淀みが、あやうく乾上がりそうになっているので、本流の水を求めて脱出を試みているところなのです。
 次の写真でお分かりでしょう。本流と分断されそうになった浅瀬をジグザグに探りながら進んでいます。 手前の方に本流があるのですが、低い目線からどうしてその方向が分かるのかというと、唱歌にあるように、彼らに備わった優れた音感によるのだろうと思われます。音そのものでなくても、流れから響いてくる振動を探りながら進んでいるのでしょう。

1日遅れたら

 次の日の同じ場所の写真です。ご覧のように水路はほぼ乾上がって、とても魚が渡れるものではなくなってしまっています。もうちょっとで手遅れになるところでした。このようなきわどいタイミングをどうして察知することができるのかは、私には分かりません。

そして産卵

 それから数日後の早朝、こんどは本流が屈曲する内側、つまり比較的流れの穏やかな場所の水草の根部に、しぶきを跳ね上げながら産卵するグループの様子が観られました。一匹一回の産卵、50〜60万個といわれています。 コイの「悪食」は有名で、口には歯がないものの喉には3列の歯を備えていて、水草、ミミズ、ゴカイ、貝、昆虫、カニ、エビ、小魚、カエル・・・なんでもコイなのです。
 環境適応力の高い旺盛な生命力はお墨付きで、体長が1mを超えることも珍しくなく、寿命150歳を超えてなお生きている例が複数観察されているそうです。
 最近、多摩川でも放流されたブラックバスが生態系を乱しつつあるのではないかと心配されているようですが、はてさて、コイの逞しさとの勝負の行方は・・・いくらか怖ろしくもあるほどです。
 多摩川には、すでに濃くコイが住んでおり、その様子を写したものがあったはずですが、どういうわけかストックに見当たりません。いずれ証明するようなものが得られたら、追加することにしましょう。

2枚ありました。多摩川中流(府中・多摩付近)の5月下旬の早朝のものです。不鮮明ですが、たくさんの稚魚を伴っているところに注目してください。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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