寒風のモズ


剣豪宮本武蔵はモズが気に入っていたようです。

秋も9月の末ごろから、枝先で「キーイ、キリキリ、キリ」と鋭く高鳴きして凛々と縄張り宣言をし、スズメよりも少し大き目といった体格でありながら、あたりを睥睨している孤高なありさまを自分に擬していたのでしょう。
ワシ・タカ類のようにクチバシの先が鉤状に曲がっていて、徹底した肉食のハンターであることにも、剣豪は共感したのかも知れません。
モズの風格はご覧の通りです。

宮本武蔵は「枯木鳴鵙図」という、モズをモチーフにした水墨画を残していますが、これは「重要文化財」に指定されているほどの出来栄えとされています。

「枯木鳴鵙図」には、枯れ立った一本の枝の先でモズが満を持しているありさまが緊迫感を放って描かれていますが、どういうわけか、その垂直の枝の途中に一匹の「イモムシ」のようなものが小さく添えられています。腕利きのハンターとはいえ、モズに眞下の小虫が目に入るのは難しいと思います。
武蔵は「灯台元暗し」というようなことまで言おうとしたのか。あるいは、気の抜けた一点があるからこそ、作品の密度が全体としては高まるということを計算してのことなのでしょうか。

モズは、「モズのはやにえ」と呼ばれる乱暴な習性をむき出しにして、見せしめのようなことをします。尖った小枝や有刺鉄線に捕まえた獲物を串刺しにして干物にするのです。冬に備えて蓄えて置くのだというのがおおかたの説明のようですが、その方の研究者によると、そのまま放っておかれることも少なくないようです。どうしてでしょう。

静と動、柔と剛。宮本武蔵にもモズにも、つまり達人たちには、ちょっと分からないところがあります。

桜の花の満開の頃 「ジョウビタキ」と「カイツブリ」


春爛漫

この年の3月25日。空も大気も輝くような好天に恵まれ、「昭和記念公園」を訪れると、ウイークデイにもかかわらず、貸自転車の8割ほどが借り出されていました。
この公園は広大です。それくらいの人を容れるぐらいはこのとおり。人影を全く入れずに風景を撮ることがいくらでもできました。澄んだ大気の中では、さしもの「新型コロナウィルス」も、万に一つ敷地の中に入り込んだにしても、ヒトからヒトへの空気感染を果たす前に紫外線で消滅してしまうに違いないと思われました。 “桜の花の満開の頃 「ジョウビタキ」と「カイツブリ」” の続きを読む

コゲラの朝ご飯 「コゲラ」Ⅱ


コゲラは日本最小のキツツキです。カテゴリー「野鳥」の中でも紹介しました。

格子半纏を着た江戸火消しの若衆といったふうで、姿も動きもきびきびしています。

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早春の午後 「アオゲラ」Ⅲ


アオゲラは日本固有のキツツキの一種で、世界に誇ってよい野鳥です。

カテゴリー「野鳥」の中で紹介してありますが、ヒヨドリを太くしたような姿で「ヒョーッヒョーッ」と林から林へと渡ります。その声と力強いドラミングが近づいてくると、「里山の精のおなりぃ」といった迫力があります。
日本の国鳥は「キジ」とされていますが、アオゲラに変わってもらったらどうだろうと思うほどです。キジには悪いのですが・・・。 “早春の午後 「アオゲラ」Ⅲ” の続きを読む

「月・日・星」と鳴く 三光の鳥 「イカル」


こわもてのイカル

ずんぐりした灰色の身体に黒覆面か黒頭巾。それを突き破るように突き出している大きなクチバシの黄色。
大きなクチバシは「アトリ科」の特徴で、イカルのほか、アトリ、カワラヒワ、マヒワ、ウソ、シメなどを身近に見ることができます。いずれも頑丈なクチバシを持っています。堅い木の実や木の芽を好んで食べるところが共通しているからです。その中でも「イカル」のクチバシの威容は群を抜いていて、かなりの木の実をバリバリと砕いてしまう様子から「豆ころがし」「豆まわし」「豆わり」などと呼んでいる地方があるようです。こわもてのイカルといった感じです。

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さまざまな説話で飾られる 「オシドリ」


「オシドリ」と聞けば、すぐに「おしどり夫婦」と頭が反応します。

「いとおしい」つまり「いと愛しい」が鳥とくっついて「いと愛し鳥」、やがて「オシドリ」と呼ばれるように。由来からして特別なのです。

オスはド派手 メスはひとまわり小ぶりで地味

カモの仲間で、オスが50㎝、メスが40㎝ほど。オスはカラフルに飾り立ててクチバシまでが赤。メスはぐんと地味な装いです。 “さまざまな説話で飾られる 「オシドリ」” の続きを読む

仁義ある闘い 「ヒヨドリ」Ⅲ


ドヤ顔のヒヨドリ

自動車で、目がつり上がって歯を剥きだしているようなフロントデザインを「ドヤ顔」と言うそうで、「どいたどいた」という気分を車に託すのがこのところのトレンドであるようです。
野鳥についていえば、とりあえず「ヒヨドリ」がドヤ顔といえそうです。「なるほど、鳥類は恐竜の子孫なのだ」と思い出させるような押し出しと、それを強調している灰色だけの衣装を選んでいます。時にカスリ模様が浮いて見えることがあって、ななか美しいのですが・・・。

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カモがネギ背負って・・・? 「マガモ」

カモ類では最もおなじみ

アヒル」の英語はダック
ダックと聞いて、「ドナルドダック」を思い出す人はディズニーファン。「ペキンダック」を思い浮かべる人はグルメマニア。とっさに「マガモ」が頭に浮かんだとしたら野鳥ファンというところでしょうか。 “カモがネギ背負って・・・? 「マガモ」” の続きを読む

背に星空 「ホシハジロ」

ユーラシア大陸から冬の日本へ

ホシハジロ」はヨーロッパからアジアまで広く棲息しており、日本では主にシベリアから渡ってくる冬のお客さんです。
今のところ日本全国で見慣れた中型のカモですが、世界的に見れば、年を追って数を減らしつつあるとの警告が出されています。近年ついに「絶滅危惧種」と評定されてしまいました。
狩猟、ボートやキャンプなどのレクリエーション、河川や湖の冨栄養化・・・などによる水辺環境の悪化が原因であるとされ、これまたヒトがもたらしている災禍のようです。また一つの種を絶滅に追いやっているとは・・・申し訳ないことです。

茶と黒と白 三つに色分け

オスは分かり易く色分けされています。
頭から頸が盛り上がるように茶色、胸が黒色、背中が白っぽい灰色。ついでに、目(虹彩部)がルビーのような赤色であることもオスの特徴の一つになっています。
メスは全体を地味に装っており、どういうわけかオスと違って、目が茶色です。背中も褐色ですが、模様がヤガスリのように浮き出して見えることがあって、これをたいそう美しいと感じる人がいるだろうと思います。

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のっそり見えて優れた飛翔 「ノスリ」Ⅱ

ノスリ」については「のっそりノスリ」という題で以前に記事にしたことがあります。ずんぐりしていてのっそり。そんな印象が強かったからでした。
トビほどの大きさの猛禽類であるのに他の野鳥をあまり狙わないことから鷹匠たちから「役立たず」[能なしタカ]とさげずまれ、今でも地方によっては、止まっている時の色合いを馬糞に見立てて「マグソダカ」「クソトビ」と呼ばれることがある・・・これらが私の先入観にあったと思われます。

のっそりノスリ

たしかに、冬の寒風の中、遠い枝の上で獲物を待つ続けるノスリに長いあいだ付き合わされたことがありました。すっと身を細めて乗り出すことがあるので「さてこそ」とシャッターに指を掛けると、また元のずんぐりに戻ってしまうのでした。
また、遠くの林の枝の絡みが祠のように抜けたところに古びた地蔵さまのようなものが見えるのをいぶかしんで拡大して見ると、正体はノスリだったこともあります。に見えるほどにじっとしていることがあるのです。こうしたことから、やはり、ノスリはずんぐりのっそりという印象でした。

華麗な飛翔

この秋、「タカの渡り」が観られることで有名な信州の「白樺峠」を訪ねました。尾根から西をうかがうと白樺の幹の間から近々と乗鞍岳が見え、東には遠く松本平がかすんでいるこの地を、1シーズンで20000羽近くのタカ類が南方に渡り、そのうち4000羽ほどをノスリが占めているとのことでした。
晴天に恵まれた一日をその日の主人公であった「ハチクマ」の渡りで堪能し、次の日、長野県と山梨県の県境に広がる「原村」に移動しました。 “のっそり見えて優れた飛翔 「ノスリ」Ⅱ” の続きを読む