さまざまな説話で飾られる 「オシドリ」

「オシドリ」と聞けば、すぐに「おしどり夫婦」と頭が反応します。
「いとおしい」つまり「いと愛しい」が鳥とくっついて「いと愛し鳥」、やがて「オシドリ」と呼ばれるように。由来からして特別なのです。

オスはド派手 メスはひとまわり小ぶりで地味

カモの仲間で、オスが50㎝、メスが40㎝ほど。オスはカラフルに飾り立ててクチバシまでが赤。メスはぐんと地味な装いです。カモ類はどれも番でいるのが普通なのですが、オシドリたちは水面に覆いかぶさった枝の陰などでひっそりしていることを好むので、いかにもむつまじげな夫婦に見立てられるのでしょう。オスの色味の鮮やかさから、目を引きやすいということもあると思われます。羽がブリキ細工の板ではないかと疑われるほどに平板に見えますが、拡大して見ると、細かい羽毛の集まりであることが分かります。

東日本で繁殖し、西日本で越冬するというのがおおかたであり、この派手さでまさかと思いきや、シベリヤ方面まで1000㎞以上の旅をこなす個体が確認されていますから、つくづく生き物はあなどれません。
このところ、西日本の湖沼に大きな群れで集まるのが目立っているようですが、これは見掛けだけの偏在で、オシドリの行く先にもレッドランプが灯り始めています。主食のドングリが減少しつつあるためだとする説があります。
世界的には珍しいこともあって人気があり、アメリカと、イギリスをはじめヨーロッパ数か国に移入されて繁殖しています。

たくさんの民話と説話

それこそ日本中に「おしどり夫婦」にまつわる民話や説話があります。ルーツは中国の戦国時代(403BC~221BC)からの「鴛鴦の契り」という物語にあるようです。鴛(えん)はオシドリのオスを、鴦(おう)はメスのことなのだそうです。

中国の戦国時代。王に、力ずくで美しい妻を奪われた家臣が痛憤のあまり自殺した。それを城の中で知った妻も「夫と一緒に葬ってほしい」と書き置いて後追い自殺。
民衆は二人に同情した。それを王は怒り、あてつけに二人の墓を離して向かい   合わせに作り「一緒になれるものなら、やってみるがよかろう」と言い放つ。
すると、一晩のうちにそれぞれの墓から梓(あずさ)の木が生えだし、十日ほどもすると、二つの木は噛み合ってつながった。その枝にはひとつがいのオシドリが棲みついた。

日本全国にオシドリ説話は沢山あり、王が殿様や猟師に変わったり、亡霊が出たり出なかったり、それぞれにバリエーションはあるものの、「夫婦はオシドリのように仲良くあれ」という諭しの主題は見事に同じです。

オシドリ夫婦の実態は

オシドリの生態が分かってくるにつれ、「あれあれ」と思われる実態が明らかになってきました。
繁殖期にオシドリは番を作りますが、巣を作り、卵を産み落として温め、子育てをするのはもっぱらメスで、オスは外敵を見張る役だけをするのだそうです。それも、メスが抱卵している途中の6月ころには、オスは番の関係を解消して巣を離れてしまうのです。

再び振り子は反対に?

ところが2018年、ドイツのある施設で、オシドリが6年間にわたって同じ番だった証拠があるという観察研究が発表されました。その結論が格好いいもので、「パートナーが生きている限り、番が解消されるという証拠は今のところない」というのだそうです。なんだかドイツ的な言い回しですね。
ヨーロッパに生息するオシドリは極東から移入されたもので、「新しい環境で生活するうちに生態が変わってしまったのでは」というコメントがあり、オシドリの真実については今後の研究に待つというのが今の段階なのだそうです。

おしどり夫婦でいられる条件

オシドリたち夫婦の実態はどうあれ、「おしどり夫婦」という言葉はヒトの社会で使われ続けてほしいものです。ほっとします。
おしどり夫婦を続けられるためには二つの条件が欠かせないとは、多くの人が認めていることのようです。
  ・基本、互いに尊敬し合えていること
  ・独りだけで過ごせる時間を持てること
なるほどと思えるものの・・・、第一の関係を充たした関係であれば、次の条件は容易に獲得できるわけで、「互いに尊敬し合えていること」が必要にして十分な唯一の条件ということになります。これが難しい。
いっそ「愛とは秘かに耐えること」をもじって、おしどり夫婦の条件は「互いに秘かに耐えること」とした方がすっきりしませんか。

最後に
オシドリの夫婦の実態を解明するには、自然の個体に標識を付けて放ち、何年にも亘って、それぞれの顛末を追跡しなければなりません。どなたかにやっていただけないでしょうか。

ロウボウ

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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