ヒトの営みに慣れて・・・賀すべきか 弔すべきか 「オオタカ」

 「猛禽類」といえば「ワシ」と「タカ」が代表となりますが、ワシとタカとの違いは一口に云って、その大きさに依っています。
 「イヌワシ」「オオワシ」「オジロワシ」などは翼羽幅が2mを超えることが多く、名前を聞いただけで畏怖を覚えるほどですが、「ワシ」という言葉には、空の王者にふさわしいおおぶりな響きがあります。それに対し、「タカ」と聞いた方が、機敏俊敏精悍、といった印象を強く受けます。
 さて、日本では代表的なタカが「オオタカ」で、背中と翼の上面が黒灰色であることから「蒼鷹(あおたか)」、それが転じて「オオタカ」となったものです。オスの体長は50㎝、メスが60㎝と、メスの方が大きく、ともに俊敏で飛翔能力は高く、急降下時には優に時速100㎞を超え、空中でハトやカラスやヒヨドリを捕えるという能力を備えています。

古墳時代の埴輪に腕にタカを載せている像があり、正倉院には、仁徳天皇が「鷹甘部(鷹飼部)」という専門職を置いたという文書が残されているそうです。それから、坂上田村麻呂、織田信長、徳川家康、三代将軍家光、といったときどきの英傑たちに鷹狩は好まれました。江戸時代には諸国の大名のうちにも愛好者は少なくなく、大金で北国からオオタカを買い入れたため、松前藩の収入の半分はタカを売った代金だったといいます。その松前藩は「巣鷹山」といった入山を禁止する区域を設けてタカの繁殖をうながしました。

絶滅の危機からの復活

 明治以来、自然環境の減少傾向とともにオオタカの個体数は減り、昭和59年(1980)には全国でわずか400羽とされるまでになり、平成5年(1993)に「種の保存法」によって「希少野生動物」に指定されました。
 ところがこのあたりから、野生動物がヒトの営む生活圏に急速に近づいてくるという例が続いて見られるようになりました。イノシシやシカやクマに始まり、タヌキ、ハクビシンなど。鳥類ではハトやカラスやヒヨドリなど。この国の山は、かつての植林が大きくなってきているものの、山の中で食べ物を探すよりも、ヒトの営みの間隙を探った方が容易に胃袋を満たせることを発見したのでしょう。日本ばかりではなく、たとえばシンガポールという超近代都市でカワウソが繁栄しているというのはよく知られていることです。
 驚くべきことに、タカ類が都市近辺で増えはじめ、平成20年(2008)のカウントでは、オオタカの個体は関東地方に限っても5800羽というまでに奇跡の回復をとげたのでした。
 その理由は、都市部でのカラスやハトなど中型の野鳥の増加によって、獲物に不自由しなくなったためだろうとされ、東京都心の皇居周辺、明治神宮、新宿御苑などは、オオタカ観察のスポットとなっているほどです。これも日本ばかりではなく、ニューヨークやロンドンでもタカ類の増加が報告されています。

家の近くで 私でさえ

 全国で400羽ということではまず無理であろうところ、関東地方だけでも6000羽ほどとなれば、私のような野鳥観察の初心者でもお目にかかれるチャンスはないではないとしても良いでしょう。
 はたして、この春の終わり頃の早朝、多摩川の対岸はるかに、芽が動き始めたかという大木の1本に2つの黒点を見付けました。縦に立った感じのシルエットから若しやと思ってズームアップして見ると、はたしてオオタカでした。非常に遠くであるのでデジタルズームまでが作動してしまい、画像は荒れてしまっていますが、特有な黒い眼帯と腹の細かな横縞が認められ、新鮮な朝日を受けてあたりを睥睨しているオオタカの番に違いありません。小型の方がオス、大きな方がメスですが、メスの方は成長になり切っていないようです。

その年の冬、「明治神宮」の境内の池の対岸の暗い藪の中で、獲物を探っているオオタカの姿を見たことがあります。

 同じ頃、これもボケてしまっていますが、たいそう高空を飛翔していた1羽のオオタカを捉えたことがあります。

 

賀すべきか 弔すべきか

 ところで、ここに写っているトビを見てください。クチバシに絡まっているのはビニール袋のようです。とびは「掃除屋さん」と言われるように、小動物の死骸や捨てられた脂ものなどを食べますから、時にこういうことが起きるのでしょう。

 もう1枚、まとまった雨の後に急流で餌を選別しているコガモの夫婦を見てください。普段のぽってりした可愛い印象とは違って、まるでイタチのような姿でせわしく、流れ下って来る食べ物を掬い取っておりました。どのようにして食べても良いものと、そうでないものを選別しているのでしょう。大雨で濁った多摩川の上流からのさまざまなゴミです。トビと同じようにビニールプラスチックの小片を飲み込んでしまうこともあるに違いありません。

 いま、世界の海水がプラスチックのスープと化してしまっており、それを体内に取り入れてしまう魚たちへの影響が懸念されております。クマ、シカ、イノシシ、鳥、魚・・・、ヒトの営みの歪んだところに引き寄せられるのは良いにしても、そのためにとんでもないマイナスを被ってしまうことのないように、祈るばかりです。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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