カラス登場
「カラス」の賢さとしぶとさは、しばしば不気味がられるほどです。
生ごみをカラスに荒らされないようにする唯一の方法は、「おはようございます。ご機嫌いかがですか」とか「こんにちは。仲良くしましょうね」と、にこやかに挨拶してやることだそうです。すると、お隣の生ごみはさんざんに荒らされても、うちの生ごみは無事なのだそうです。
筆者も、こんな話を聞いたことがあります。
日本の商社で働いていた或る英国人の青年が、マンションの近くでカラスが生ごみを散らかしているのを見たので、コウモリ傘の先を向けて「Bang !Bang!」と警告しました。そうしたことを数回繰り返した或る朝、部屋のバルコニーの端に1羽のカラスが止まってしきりにこちらを窺っている様子です。人差し指を伸ばして「Bang! Bang!」と警告しました。すると次の日には3羽、次には7羽、10羽と増えてゆきます。ついには隣のマンションの屋根にまでズラリと並ばれることになり、ある日、出社しようと坂道を下っていると後ろから帽子を跳ね飛ばされたそうです。あれやこれやで、日本のカラスは気味が悪い(?)と言って、青年はシンガポール支社への転勤を願い出たそうです。
トビ登場
「トビ」も応用の利く鳥で、山奥にも市街地にも棲息している馴染みの深い鳥です。海岸にも沢山います。定置網が行われている漁港では、いっとき、舟も陸も空もごったがえします。トビが漁業組合の屋根などに群れていて、隙を狙っては陸揚げされたばかりの魚をさらうのです。
トビは猛禽類に属しますが、生きた獲物よりも小動物の死骸や、ヒトの食べ残しなどを好みます。「掃除屋さん」と呼ばれるほどです。この国は食料の半分近くも外国に頼っているのに「食品廃棄大国」として有名ですから、トビにとっては暮らしやすいわけです。
宿命のライバル
というわけで、カラスとトビは食性が似ており、棲息地も重なり合いますから、昔からライバルというわけでしょう。
そしてどちらかというと、カラスたちがトビを追いかける場面が多いようです。これは洋の東西を問わず同じらしく、ギリシャかトルコだかに伝わる次のような昔話を読んだことがあります。
昔々、トリたちがみんな真っ白だったころ、それぞれに色を付けて見分けがつくようにしようという話になり、その役にトビが選ばれました。トビは、始めの頃は沢山の色を使って美しい色付けをしましたが、疲れてくるにつれ、だんだんと簡単に済ますようになってゆきました。列の最後に並んでいたカラスが、「しっかりやってくれなきゃ困るじゃないか」と言って、トビが抱えていた壺を蹴り上げました。壺には残りがちだった黒い色がたっぷり入っていましたから、それを被ってしまったカラスは頭から尻尾まで真っ黒に染め上げられてしまいました。それからカラスはトビを追いまわすようになったのです。
カラスがしつこくトビを追いかける様子には、時に殺気立って見えることがあります。殊に繁殖期には、要所要所に見張り番を配置しており、トビが侵入してくると警報を交わし、次々に飛び立って迎撃に向かうといった様子です。
カラスは、上から見下ろされることをひどく嫌うという観察があります。おそらくトビの並外れた視力で、巣に産み付けられた卵を発見されてしまうことがあるのでしょう。
或る空中戦遠望
トビを追うカラスの群
トビを追うカラスの2羽
トビの上空のカラス
上空からカラスの攻撃
1撃の後の反転
さらに追撃するカラス
トビ離脱
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。