神戸連続児童殺傷事件 Ⅻ-Ⅰ 少年は変わり得る 処遇事例から

関東医療少年院の役割

 「・・・非行の重大性等により、少年の持つ問題性が極めて複雑・深刻であるためその矯正と社会復帰を図る上で特別の処遇を長期に必要とし、医療の介入が一義的に重要と判断される事案・・・」
 関東医療少年院はそのような特殊な事案にかかわり続けてきた。平成10年(神戸事件後)から同16年(筆者退官直前)までの7年間に限っても、そのうちでも際立って特異な対象のおよそ20例を他の少年たちに混じえて治療教育した。この期間を中心にして(この期間を外れている例もある)、筆者の印象に刻まれている事例のいくつかを挙げてみる。比較的スムースに社会復帰を果たせたものがほとんどで、この7年間の事案に限れば、今のところ、前回と近しい犯罪を再発させたという情報を得ていない。
 事例をまとめるにあったっては、プライバシーの保護のために、氏名、年齢、日時、場所などを伏せ、内容についても要点が保たれるぎりぎりのところまで改変した。そうしたからといって、本人の同意を得ることが不要となるわけでは原則ないが、それぞれに保護処分を終了した身分には、矯正側から連絡を取ろうとするのは不可であり、ついで、ここに事例として挙げるのは、少年たちが「自他への信頼の回復」ということに如何に苦しんで努力したかという実際を、敬意をもって報告したいからである。少年たちは変化し得るということを、少しでも多くの人に知ってほしいからである。本人が目を通すことがあったにしても、私どもの間に不信が生まれることはないと信じている。
  近く成人年齢が引き下げられることにともなって、18・19歳の年長非行少年たちは原則として保護的な処遇を受ける機会が得られないことになる。保護的な対応が第一義とであると判断された事案については、そのような処遇の選択ができるようにしてもらいたいと筆者は強く願っている。
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