レンジャクの混群 遠望

春も五合目

満開を過ぎたの花殻が枝にこびり付いたようになり、代わって、の花芽がはち切れそうに太ってきている頃の或る朝、多摩川の岸辺に小石を拾いに行きました。
愛犬モッチ(子犬)も春は嬉しいらしく、庭に出してやると喜んであちこちをほっつき歩くのは良いのですが、家の中に戻そうとするとき、足の裏を拭いてやるのが大変になってしまったので、庭のここぞという所を小石で敷き詰めてしまうのが良かろうと考えたからです。

あれ ナスが巨木の枝に?

バケツにほどほどに小石を入れてサイクリングロードに戻ろうとしたとき、川沿いに連なっている落葉巨木の梢近くのひとつに、丸っこいものがいくつか並んでいるのに気が付きました。じっとしています。

ナスの形に似たシルエットは14羽の鳥、それもイカルの群れではないかと思いました。ずんぐりした身体を縦に立てて止まる習性のあるイカルは、春の移動の前にあんな風に集合するものです。

レンジャク! 

望遠レンズで拡大してみると、朝の斜光も遠くからのことでしたが、イカルではないことが分かりました。イカルには有るはずのない冠羽(後頭に突き出た羽毛)が見えたからです。

レンジャク!
今年は当たり年?

レンジャク」は漢字で「連雀」と書かれるとおり、「連なって止まるスズメ科の鳥」ということだそうです。

特徴的な冠羽、濃いサングラスを掛けたような目の周り、風切り羽の配色の美しさ。これらもさりながら、比較的に人を怖れない性質があることから、機会に恵まれれば、実をついばむ姿を近々と見ることが出来るので、バードウオッチャーやカメラマンには人気があります。

謎めいたところがあるのも、いっそう人を引き付けるのかも知れません。
日本で冬を越す鳥ですが、探しても訪ねても一向に出会えない年もあれば、大きな群れを作って街路樹や電線などにさえ何日もとどまっているために飽きられるほどのことがあり……年によって飛来する数が大きく変動し、それがどのような周期で何故なのかが分からないのです。

イボタ、ヤツデ、キズタ、ズミ、ナナカマド、ヤドリキといった木の実を食べますが、とりわけヤドリキの実は好物でレンジャクたちを引き寄せるので、マニヤックな人たちが、全国規模のヤドリキスポットともいうべきものを作っているほどです。飛来の少ない年でも、ヤドリキに注目していればお目にかかれる機会は大きいというわけです。
レンジャクとヤドリキとは共生関係にあると言われるほどに密接で、レンジャクのお腹を通ったヤドリキの種子はネバネバした糸を引くようになっており、また樹の枝に絡み着いて発芽発根するチャンスを得られるという仕組みです。

  写真 石田光史


ヒレンジャクとキレンジャク

「ヒレンジャク」と「キレンジャク」の2種類があり、それぞれ「緋連雀」「黄連雀」と書かれるとおり、簡略には、尾の先端が赤いか黄色いかで判別できます。


2種の分布はかなり違います。図に示しました。
ヒレンジャクはシベリア東部、中国北東部(アムール川やウスリー川流域)で繁殖し、北海道を除く日本、朝鮮半島、中国東部の沿海地域で越冬します。分布はキレンジャクよりも狭く、繁殖地の森林減少と環境悪化のために絶滅が危惧されています。

一方のキレンジャクは、ユーラシア大陸の寒帯に広く分布して繁殖し、日本全土を含む東アジアで越冬します。
つまり、ヒレンジャクはキレンジャクよりも少し南の地域で繁殖し、越冬もより南を好むようです。それで日本でも、ヒレンジャクは温暖な西日本で多く見られ、キレンジャクは東日本で多く見られるのでしょう。

レンジャクの混群

とはいえ越冬地は重なっているわけですから、2種のレンジャクはしばしば混じり合って行動します。親戚同士が混群を作るということになります。
私が多摩川で遠望したレンジャクたちも、上の写真に見られるように混群でした。

やはり謎めいて

この日、上空をタカ(おそらくオオタカ)が旋回していました。
レンジャクたちが算を乱して藪や低木の中に避難する行動をとれば、こちらとしては近くで対面できる機会が生まれるかもしれないと思ったのですが……レンジャクたちは悠然としてなんの動きも見せませんでした。
レンジャクたちは頭上のオオタカに気が付かないほどにのんびりしているのか。
気付いていながら、オオタカが小型の鳥を狙うことは滅多にないということを計算した上での無反応なのか。
やはり、謎めいたところがあるようです。

次にはもっと近くでお目にかかれて、冠羽や背中の美しさなどをじっくり見られたらと願っています。