外国からのバードウオッチャーのあこがれ 「アオゲラ」

少年のころ、ヤギのために草刈りをするというノルマを果たして背負い籠がいっぱいになると、古いダムのほとりに腰を下ろして、「あの山の向こうには何があるのだろう」と想うのがいつものことでした。テレビは白黒で画面は不安定、しかもおそろしく高価で高嶺の花。ましてケイタイも無い時代に育つことができたのは、本当に幸いだったと思います。
初夏、うっそうと枝が垂れ下がった対岸から、ウグイスのさえずりが鏡のような水面を渡って来ることがよくありました。あれほど澄みきった音色にその後に出会ったことはないと思います。そんなウグイスのさえずりに「コココココ・・・」と響くキツツキドラミングが重なることがありました。アオゲラに挨拶してもらいます。

ケラとはキツツキのこと でも、アオゲラは特別だよ

それから何年も何年も経てこの春の終わり、私たちボランティアのフィールドの「百草分園」とでもいうべき区画の一つに居ると、一方に続いているクヌギの林の奥から、少年のころに馴染んだことのあるキツツキドラミングが聞こえてきました。そっと踏み込んでみると、林のほぼ真ん中にクヌギと思われる一本の巨木が枯れたままそびえていましたから、さてこそと仰いで目を凝らしてみましたが、動くものはありません。くびすを返そうとしたとき、なんと、太い幹のほとんど目の高さのあたりに、見事な「アオゲラ」が取り付いているのに気が付きました。これが互いにお近づきの挨拶といった写真です。

全長30㎝にちかく、背は暗い緑色、腹には白と黒の波状の横縞、頭頂と頬に紅い班。この紅い班が大きくて鮮やかな方がオスです。全体に背中の緑色が強く印象されて、姿には迫力があります。「ヒョーッ、ヒョーッ、ヒョーッ」というさえずりも大きく、森の精霊の先触れかというような凄みがあります。一転、地鳴きとなると「キョ、キョ」と低くつつましくなります。木をつついてムシやアリを食べますから、樹木にとってはありがたい味方です。

わたしが オスですよ

その、木のつつき方というのがハンパではありません。幹をつかむ足を支点として、体全体をハンマーのようにしてクチバシを振り下ろしますが、回数は1秒間に20回ほど、その勢いは時速25kmにも達し、自動車衝突事故なみの衝撃を頭に受け続けているわけですから、ヒトであればたちどころに目玉も脳も飛び出してしまうというものです。キツツキたちはどのようにしてを守っているかというと、まず、クチバシの根元の筋をクッション状に発達させており、ついで、頭蓋骨の中をスポンジ様の構造体でくるんで衝撃を吸収するようにしています。
樹の奥に食い入っている虫を絡めて引き出すためには、長い舌が必要です。伸ばし切れば10㎝にもなる舌の収納の仕方を、脳をぐるりと守り込むように、頭蓋骨と皮膚のあいだに巻き込めるように工夫しています。巻き尺をイメージしてみてください。ここにも進化というものの怖ろしさを垣間見ることができます。

やっぱり 樹の上の方が居心地がいいや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔は緑色のことをアオといい、キツツキのことをケラといったのが、「アオゲラ」という名前の由来のようです。日本だけに生息する固有種で、外国から訪れるバードウオッチャーが是非お目に掛かりたいとしているものの一つです。
日本の国鳥が「キジ」と決められている大きな理由は日本固有種ということだそうですが、私としてはアオゲラに変えてほしいところです。

標本にするより写真を撮ってって ポーズはこれで!

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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