「ツバメ」は誰にもなじみのある小鳥です。
そのスマートさにふさわしい飛翔能力には驚かされます。宮本武蔵のライバルだった佐々木小次郎の秘剣「つばめ返し」は、ツバメが華麗俊敏に身をひるがえす有り様にあやかって名付けられたものでしょう。
カルガモの上を飛ぶツバメです。
小さな左官屋さん
多摩川付近では、「ツバメ」と「イワツバメ」が見られます。顔が赤くて尾の長いのがツバメ。いくらか小ぶりで、顔と腰が白く、尾が短めなのがイワツバメです。飛んでいるときに、イワツバメの腰のあたりの白さはたいへん目立ちます。
飛び回りながら虫を獲り、水面をかすめるようにして水を飲み、めったに地面に降りるということをしませんが、巣を作るときだけは例外で、川の淀んだところに溜まっている泥を運んで行っては巧みに壁を塗りあげるので、「左官屋さん」と呼ばれることがあります。泥を取っているときに見ると、イワツバメは脚の先の方まで白い羽毛でおおわれていることが分かります。下の写真2枚はどちらもイワツバメです。 本来、イワツバメはその名前の通り、岩のゴツゴツした断崖で繁殖していましたが、このところ街の人工物に巣を作るようにもなっているので「コンクリツバメ」と呼ばれ始めているそうです。ビルの軒下の方が、落石や大雨のために巣ごと破壊されてしまう危険が少ないことを学びつつあるのでしょう。ここにも、生き物というものの生態は驚くほど速く変わるものだということを観ることができます。イワツバメという名前の方がはるかに美しいので、呼び方が変わりつつあるのは残念なことです。
長い長い渡りの一人旅
ツバメたちは春に、台湾、フィリピン、さらにその南からも日本に来て繁殖しますが、4000㎞ともいわれる渡りの旅を、どういうわけか、1羽ずつバラバラになって一人旅をするのだそうです。小型なので能力差が大きく出て自然に1羽ずつに分かれてしまうのだという説と、群れをつくるよりも天敵に見付けられる率が低くなるからだという説があるようです。いずれにしても、太陽をコンパス代わりにして、海面すれすれを時速50㎞ぐらいで飛行し、敵に襲われた時などには時速200㎞もの速さで逃れます。
日本列島に到達すると、南から順に山脈や入り江などの地形をやり過ごし、記憶をたどって、去年に巣の在った1点に戻るのです。山や半島はまだしも、川筋や建物はかなり変わっていることがあるはずです。そのあたりをどうするのでしょう。それに、ツバメには認知症はないのでしょうか。後の写真はどれもつばめです。顔の赤いところを見てください。
木の葉のお舟
野口雨情作詞、中山晋平作曲の「木の葉のお舟」という童謡があるのをご存知ですか。
帰るツバメは 木の葉のお舟ネ
波にゆられりゃ お舟はゆれるネ
サゆれるネ
船がゆれれば ツバメもゆれるネ
ツバメ帰るにゃ お国が遠いネ
サ帰るネ
三番あるうち、一・ニ番を写しました。海の上、数千キロという旅を「木の葉の舟」でとは現実ばなれしておりますが、そこは詩人で、心細さと可愛らしさがイメージとして波のように、たゆとうように感じられます。
イワツバメが新築中
しまいに、イワツバメの営巣を掲げておきます。せっせと新築中です。一名、「コンクリツバメ」といわれるわけが分かります。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。