まさかの優しいつぶやき イカル

まるで礼拝堂に迷い込んだように

数年前、木の芽が動き始めるかという早春の頃。
とある林の中に踏み入って・・・足が止まってしまいました。
木々たちが歌っている!
控え目で優しい音色が、林全体を包み込んでいたのです。

重なり合った枝の中に、何羽かのイカルが見付かりました。
灰色の全体に、烏天狗のような巨大なクチバシ。そのクチバシは黄色。太めのムクドリといったドスノ効いたシルエット・・・見間違いようもありません。
春のBGM・・・まさか。これがこわもてのイカルたちによって奏でられているとは、その時は気付きませんでした。

イカルの鳴き声「さえずり」といえば、「イカルコキー」「キーコキーキー」「お菊二十四」「蓑笠着い」「月・星・日」などと聞きなされています。
私には「特急列車来い!」としか聞こえない甲高いもので・・・ホームの黄色線から下がって待てというような警告だとすればピッタリの調子だと思います。
おしまいが「キーッ」とか「ヒーッ」と切り上がって鋭く響き渡るもので、あたりを包み込むようなBGM風とは正反対です。
「イカルコキー」という聞きなしから「イカル」という名前が、「月・星・日」と聞いたことから「三光鳥」という呼び方が、それぞれ生まれています。

すると、春のBGMは「さえずり」ではなく「地鳴き」だということになりますが、イカルの地鳴きというのは「キヨッキヨッ」という比較的単純で短いものだと説明されており、私も「そんなところだろう」と思い込んでしまっていたわけです。

今春 また林が歌うのを聞く

この年になって、やはり早春。
多摩川中流の河川敷に続いた林の中で、あたりの木立全体が優しいつぶやきで包み込まれているのを感じて、私はたたずみました。
見上げると・・・イカル!
ご覧のように、互いにきれいなソーシャルディスタンスを保ちながら、この遠いシーンだけでも十四羽ほど。

数年前の光景と結びついて・・・ようやく、件のBGMはイカルたちの控え目な地鳴きが絡み合ったものなのだ、と分かりました。

数年前に聞いた、礼拝堂に踏み入ったかのようなスケールではなかったのですが、近くを流れる川のせせらぎが被さって、春を迎えるにふさわしい音色になっています。
「キリキリ、クルクル、キィロキィロ、キリリクル、ピリリクル、キョキョ・・・」
控え目に、句切れなく続きます。
尻尾と喉をひくひくさせていてそれと知れる個体と、そうでもない個体とがあるようです。♂と♀の違いなのかしらん。


確かめたいものです。巡り合わせがあるのなら、もう少し大きな群れと出会って・・・。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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