渓流の若衆
日本の水辺によく見られるセキレイには、キセキレイ、セグロセキレイ、ハクセキレイの3種があります。全体をちょっと見の印象がそれぞれ、黄、黒、白であることからの上手な呼び方で、写真のように見分けは容易です。
どれも流麗な小鳥たちですが、キセキレイには「渓流の貴婦人」と呼ばれるにふさわしい落ち着いた雰囲気があり、セグロセキレイには「渓流の鞍馬天狗」と呼ばれても良いような押し出しがあります。
三番手のハクセキレイは他の2種よりもわずかに小さく、白と黒の羽色の振り分けにも個体によるバリエーションがかなりあるようです。水辺をけっこうに離れた場所でも尾を上下に振りながら盛んに活動しているので、私はハクセキレイを「渓流の若衆」と呼んでいます。
ハクセキレイ 水辺で餌を獲る
セキレイはどの種も人なつこいところがありますが、ハクセキレイも好奇心が強いようで、餌を探しながらもしばしば立ち止まって、しげしげとこちらを観察することがあります。ビデオでもよく分かります。
ハクセキレイ 流れの中の石から虫を獲る
流れの中を飛ぶ獲物を、ひらりと跳んで捕らえるセキレイの景色はしばしば目にするものです。
けれどふと思うに、虫一匹から得られるエネルギーは、あれだけの跳躍に消費するエネルギーに見合うものかということが気になるのです。
よほど滋養豊富で帳尻に合うものを選んでのことか、でなければ、ゲームなのか、鍛錬なのか・・・。
そして ハクセキレイの舞
川面に虫が豊かに群れる時には、かねて練習してきた技量が活かされることになります。
飛んでいる最中に種類を当てるのはあやふやですが、羽をおさめた瞬間からは、殊に背中の色味が薄いことから、遠目でもハクセキレイであることが分かるようになります。
このビデオを撮ったのは早春のうららかな日和で、川と土手には一度に虫などが湧いて出たらしく、ハクセキレイばかりでなく、セグロセキレイ、タヒバリ、カルガモなどで賑わっていました。
セキレイたちの揃い踏み
春、同じ流れの同じ場所で「貴婦人」と「黒頭巾」と「若衆」たちが触れ合っていました。
前に記したように、キセキレイとセグロセキレイはそれなりに結構な押し出しというか雰囲気を持っているのに比べて、ハクセキレイはいくらか細目であることもあって、1対1であると押され気味であるようです。
これが種の存在ということになると、話が違ってきます。
ハクセキレイは世界的に生息区域が非常に広く、日本でも繁殖地域を次第に南下させつつあるということです。
小柄でありながらハクセキレイは水辺をかなり離れても活動できる習性を備えており、サッカーやテニスなどのコート、野球や陸上競技のグラウンドなどはもとより、ちょっとした公園や庭や資材置き場などでしばしば見かけられます。
そうした幅の広さが種として現れれば、キセキレイやセグロセキレイを圧倒するものになるのでしょう。
いよいよの弥栄を! どのセキレイたちにも。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。