少年のための矯正施設に居たころ。ある初冬、私は女子寮の中庭にある梅林の剪定作業を独りでしようとした。「桜切るバカ、梅切らぬバカ」と昔から言われているように、梅は素人にも扱いやすい木である。枝が密に伸びていてけっこうに硬いから、私物の大型の剪定鋏を使っていた。ずっしりと重いその剪定鋏は園芸用の刃物では名の通った泉州堺のメーカーで作られたもので、切れ味、握り具合、戻り、などのバランスの良いすぐれものだった。
二日目の作業の最中、握りの間に梅の枝を引っ掛けたまま捻じってしまったとみえて、ふいにスプリングが外れ、弧を描いて、はるかな草むらの中に跳び込んで行ってしまった。梯子に乗って、腕を伸ばした高さからである。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。