私はカバンを何回か無くしたことがある。印象的なものでも2回。
1回目は、新宿駅西口に「○○通り」といった横丁飲食街が全盛であったころ、つまり何十年も前のことだった。
医局に入ってから3年目に、先輩から「司法精神鑑定」を手伝ってくれないかと頼まれ、そのための資料集めや下書きなどに集中したことがある。
そうした書類を詰め込んだカバンを、深夜、新宿駅西口で夜食を掻きこんでいるときに、見事に「置き引き」されてしまった。届け出を受け付けた警官がカバンの内容を聞くと「これは面倒なことになるかもしれませんね」と言ったから、私の不安はいよいよ高まった。極め付きのプライバシーを手元から離してしまったのである。怖くて、2・3日は先輩と顔を合わすのを避け続けていた。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。