処遇効果の全体的把握
この事案に限ってのことではない。処遇の経過を縦断的に捉えようとする補助の一つとして、様々な場面での少年の表出を節目節目に、できるだけ多くの教官に評価してもらい、それをレーダーチャート様のものにまとめてみることがある。陶芸や板画などの作品に表れる変化と照合すると参考になる。
図に見るように、11の項目を、あらかじめヒントとして挙げてある留意点を参考にして10段階で評価し、12番目に全体の平均点を出すようにしてある。もちろん、ここに例示したレーダーチャートは当該少年のものではない。
多くの事例について言えることであるが、グラフが次第に膨らんでゆく様子には一定の傾向がある。まず初期には、基本的な生活の習熟、職員への表出、体育、作業、学習といった、個の行動を主とした「日々の生活面」の状態が上向き、次いで、全体日課、係活動などに協調性・責任性を示すようになり、やがて、対人関係、家族との関係の修復、事件との直面、贖罪意識、それらを将来につなぐ具体的な計画というふうに、「精神・社会面」の評価項目が拡大を見せてゆく。
レーダーチャートには、時計の文字盤で言えば12時から6時ほどまでに、生活・行動面の評価項目を並べてあるから、当初はD型をした半円が整い始め、左半分はなお削げたように欠けたままで残るが、やがてゆっくりとO型に膨らんで正円に近づいて行く例が大部分である。ときに、せっかく円に近づいて拡大しつつあった形が、ある時点からヒトデ状に小さく縮んでしまい、長く停滞し、また広がり始めるという経過を見せる事案などもある。
たとえば、「作品に見る表出」あるいは「対人関係の安定」という項目を評価するにあたっては、どの少年についても、次の3つの点に留意すべきであるとされていた。
・作品(陶芸・版画など)に見る表出
① 取り組みの姿勢が前向きであるか
② 作品は健康的で、代償・昇華などの意味が認められるか
③ 独創性・感性・巧緻性・訴える力を具えているか
・対人関係の安定
① 他を猜疑せず、自信をもって伸び伸びとしているか。緊張などを隠すために不自然な言動を取ることはないか
② 相手の立場を考えた行動ができるか。多生の誤りに優しさと寛容を示せるか。好かれているか
③ 分け隔てなく、公平・平等・明朗にコミュニケーションが取れるか
対人関係で安定を保つ。これは難しいであろう。「相当長期の処遇勧告」が家庭裁判所から付けられている事案は高い問題性を抱えており、その様態はさまざまである。そうした仲間同士が限られた土俵で、入れ替わり立ち替わり、かかわりあってゆくのである。緊張を強いられ、過敏になったり猜疑したり、不自然にはしゃいでみせたりする。それが職員に向うこともある。
11番目の評価項目である「贖罪の意識」は、次のような3点に留意して評価することとされていた。
・贖罪の意識
① 被害者やその周辺の人々の、痛手や心痛を理解しているか。陳謝と反省の真情がうかがえるか
② 非行にいたった原因を深く内省しており、非行を繰り返さないための方策を表示できるか
③ 罪をあがなう方法やあり方を、具体的、明解に表示できるか
この図表から総合評価をするとしたら、「B‐上」といったところであろうか。「総合評価B」というのは、「目標をかなり達成しており、達成は不十分であるが相当の努力が見られる」をクリアしている状態をいう。この評価のうちの上程度ということになる。
ちなみに、「総合評価A」は「目標の全体をおおむね達成しており、顕著な努力が見られる」というもので、ある年の集計によると、これを獲得する者は全国の少年院在院者のうち、わずか0.2%でしかない。「総合評価B」は10%であった。
筆者の現在について、このように多軸的に全体を評価されたら、「贖罪の意識」という項目は除外してもらえるものの、おそらくレーダーの形はここに例示したものより、歪みは大きく、形は小さく示されるであろう。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。