心に共鳴する不思議なサエズリ 「ホオジロ」

ホオジロの声聞けば山里ぞ恋しけれ」とは、誰であるかは忘れてしまいましたが、何世代か前の高名な詩人が望郷の気持ちを詠った詩の一節と記憶しています。詩人はホオジロの声を都会で聞いて心を揺さぶられたわけですから、ホウジロは山里にも都会にもいるというわけで、ヒトとホウジロとの微妙な距離感というようなものが、この一節だけからもうかがわれます。挨拶してもらいましょう。

わたしたちホウジロです なかよし夫婦です

ホホジロは、姿かたちはスズメに良く似ています。スズメを全体に細くきゃしゃにして、首から上の黒と白の振り分け具合をはっきりさせた感じです。挨拶してもらった夫婦では、顔のあたりの色付けがはっきりしている方がオスです。スズメのように集団を作っているのも見たことがありません。

さまざまに聞き取れる複雑なサエズリは昔から有名

寒風のすさぶ雪の野原で、鉛色をした空を刺している桑の木の枝先などに、はすかいにかじりついて揺れながら

「てっぺん欠けたか!」
「おせん泣かすな。馬肥やせ!」
「一筆啓上仕候!」
「デッチびんつけ、いつ付けた!」

叱咤激励するばかりの張りつめたサエズリを繰り返します。
スズメの親戚だけになかなかに頭の回転も速いようで、少年のころに何度も経験したことですが、土手に身を隠したり、なんの興味もないといわんばかりに口笛を吹いたりして近づかなければいけません。途中でちらりと横目を使っただけでもう駄目でした。ホホジロは何がたくまれているかを察して飛び立ち、遠くでまた大声をあげます。もっとも、そのころの私は、ゴムヒモの弾力で小石を飛ばすパチンコと呼ばれる飛び道具を持ち歩いていました。

「け、け、け。見えたよ、見えたかい。ふえー!」
「お前のパチンコ、歪んでるじゃないか!」
「風邪引かぬうちに、とっとと帰れ!」
「間抜け、間抜け。お父ちゃんに叱られろ!」
「階段すべるな、落ちるな、けっつまずくな!」

ホホジロの歌は、どのようにも聞き取れる面妖なもののようです。声はとても美しいのに、いつも叱られているような、野次られているような感じを受けないでもありません。
その姿も、妙にずんぐりむっくりに見えたり、たいそうスマートに見えたりと、極端のように思います。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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