ハチドリのような蛾 「ホウジャク」

チョウはヒラヒラ トンボはスイスイ?

 蝶は「ヒラヒラ飛ぶ」といわれ、トンボは「スイスイ飛ぶ」といわれます。たしかに「アゲハチョウ科」を代表として、チョウの多くはひらひらと飛びます。
 が、どこにも変わり者は居るもので、ヒラヒラどころか「ブンブン」と飛ぶチョウも居ります。例えば「セセリチョウ」は、頭大きく、胴太く、ずんぐりしています。羽ばたきも速く、ブンブンにふさわしく素早く飛行します。
 ヒラヒラ派の代表として「キアゲハ」に、ブンブン派の代表として「イチモンジセセリ」に登場してもらって写真を見てください。対照的な特徴が一目瞭然です。


 トンボというと、前後左右、上下、ホバリング、などがスムースそのもので、直線飛行も「オオニヤンマ」で時速70㎞、「ギンヤンマ」で70〜100㎞という高速ぶりです。その自由自在ぶりは理想の飛行体としてヒトの憧れの的となっており、世界中の技術者がそのメカニズムの解明と模倣にしのぎを削っているのだそうです。

 が、トンボの中にも変わり者は居るもので、たとえば「カワトンボ科」の「ハグロトンボ」はホソホソトンボと呼ばれることがあるように、細い胴や頭、翅が薄くて大きめで、スイスイではなく、「ヒラヒラ」あるいは「ヒランヒラン」と舞うように飛びます。
 スイスイ派の代表として「ヤマトンボ」に、ヒラヒラ派の代表として「ハグロトンボ」に顔を見せてもらって見比べてください。これも対照的です。

蛾はバタバタ?

 ところで、の飛び方はどのように形容されるのでしょう。「誘蛾灯」というものが有るように、夜間に明かりの周りに群がる様子はあまり器用には見えず、「バタバタと飛ぶ」あるいは「ハタハタと飛ぶ」というのがふさわしいように思われます。バタバタと飛んでヘタリと張り付くという印象です。
 けれど、ここにも離れした変わり者は居るものです。トンボに引けを取らない飛行性能、セセリチョウのように高速な翅の運動、飛ぶ宝石「ハチドリ」さながらにホバリングしながら花の蜜を吸い上げる技術・・・。これらを全部そなえたが居るのです。

ホウジャク〔蜂雀〕

 「スズメガ科」に属するガたちがそれで、わけても「ホウジャク〔蜂雀〕」という種が身近です。漢字の表記のとおり、ハチか、小さな鳥かと迷うほどであるということでしょう。実際、「公園でハチドリを見かけた」という通報してくる人が少なくないそうです。5㎝ほどの大きさですが、なかなか貫禄があって、大きく見えます。
 何枚かの写真を見てください。どうでしょう。ハチドリと間違えても無理はないのです。ぴたりとホバリングしながら長いストローを伸ばして、見事な空中補給ぶりです。

 止まっているときのホウジャクは、頭大きく、胴太く、翅比較的小さく、枯れ葉模様にカモフラージュされていて、デルタ翼の戦闘機がうずくまっているように見えます。それも、イギリスの垂直離着陸機「ホーカー・シードレー・ハリヤー」というのと雰囲気がぴったりです。
 「ホウジャク」の飛行性能は、時速50㎞、前後左右、上下、ホバリング、全て自由自在。速度の比較についてはさまざまな補正が必要でしょうが、全体としてハリヤー機なんぞの及ぶところではありません。
 からくも太刀打ちできるのは、カリブ海諸島を中心に南北アメリカに棲息する「飛ぶ宝石ハチドリ」たちでありましょう。ホウジャクとハチドリ。食事中も空中に留まっているために激しい運動を要しており、それだけに、いっそう多量のエネルギーを吸い上げる必要があるということでは一致しています。飛ぶということは、そんなに楽しいのでしょうか・・・。
 ハチドリの写真は撮ったことがありませんから、稚拙ながらスケッチをしてみました。できるだけ地味なハチドリを選びました。

 スズメガとハチドリ。全く違った進化の道をたどりながら、間隙を生きてゆくために行き着いたノウハウが、おおきく重なり合っています。生命の不思議の一つだと思います。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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