数年前、日光へ短い家族旅行をしたことがあります。高名な滝や、きんきらに積み上げた建物群にはあまり感心しなかったけれど、杉並木を通り抜けながらのタクシーの運転手さんの話が印象的でした。その話の主人公はカラスです。
お呼びか 食事のジャマはまずいぜ 分かってるよな
日光の話に戻ります。観光客が買い与える餌や残し物でうるおったためらしく、まずハトが増え、そのハトのヒナやタマゴを満足に食べることができたためもあって、やがて日光の周辺にカラスが目立って増えたのだそうです。
土産物店が狙われ、きらきら光る売り物が持っていかれるようになり、ついに観光客の帽子やペンダント、とうとうイヤリングまでを狙って急降下するものが出はじめたのだそうです。カラスは光った物がなにかと好きで、そうしたものを巣に溜めこむ習性があるのです。互いに自慢しあうことすら、あるいはあるかもしれません。
観光協会などが相談のうえ、数百羽を間引いてくれるように地元の猟友会に申し入れると、「お安い御用!」という返事。ところが、いつもは平気でヒトに近づくカラスたちは、飛道具を見るとはるか遠くに離れてしまい、それでいて、クワやサオを担いでいる人の近くにはくろぐろと群れて遊びます。「散弾銃」となると、瞬時にそれと見て取って敬遠してしまうのでした。
やみ討ちの一発だけ
あらかじめ取り決められていた1ヶ月の間に、猟友会が間引きできたカラスは、わずかに1羽でありました。それも、フロシキで包み込んだ銃を抱きながら自動車の助手席に乗っていて、ガードレールの杭にとまっていた相手を、走り抜けざまに流し打ちしたのがうまく命中したのだそうです。1個の黒い生き物は飛散しましたが、「お安い御用」の結果がこれでありました。
意外と粗雑な巣 弁当あらしなど
樹の高所の三つ又の部分などに巣を作り、何年も利用するようです。太目の枯れ枝などを重ねてあるのは、耐用年数を考えてのことかもしれません。本来、野鳥を追い払うためのキラキラした光り物や針金のハンガーなどがよく持ち込まれています。よく見るとこの巣にも、荷造り用のグリーンのテープが持ち込まれています。遊ぶということを知っている証拠でありましょう。この能力が公園などでは猛威を振るい、ちょっとした隙に、お母さんがせっかく作ったお弁当が・・・このありさまです。
鳥類の中で、カラスは一番知能が発達しているとされています。道路に置いたクルミを自動車にひかせて殻を割る。公園の蛇口をひねって水を飲む。スベリ台で遊ぶ。巣を排除したり、あてにしていた生ごみを撤去したりしたヒトの顔を固有に認識して仲間にも伝達し、集団で攻撃することもある。・・・こうした報告はたくさんあります。
子育て中のカラスが互いに連携しあって、自分たちの巣を守るための要所要所に見張りを配置し、トビが現われると猛々しく呼び交わしながら迎撃に向かい、空中戦のあげくにトビを追い払うといった場面を、私も何度か見たことがあります。ただ、その目まぐるしい空中戦をしっかりと望遠レンズの視野に捉えるには私の腕前の方がなお未熟で、まだ成功しておりません。
妙に義理堅い ところがあって、「やあ、こんにちは。元気?」などと挨拶を繰り返すと、その家の生ごみを荒らさなくなるということです。
ヒトの生活の脇で繁殖するということではスズメと共通しておりますが、受けて立つというようなヒトへのあしらい様を観ると、その逞しさにおいて、スズメよりもどうもカラスの方に分がありそうです。
烏合 どころか何やら打ち合わせ?
カラスの行水
薄暮の恋
けれど、カラスもやはり恋するのです。・・・ところが、この写真を撮影した日付を確かめると6月16日になっています。こちらの思い入れのために間違っている可能性が大きいようです。鳥たちの恋の季節とはずれています。恋ではなく、巣立って間もない幼鳥が親に食べ物をねだっているところかもしれません。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。