黄金に輝く崖

夏の早朝

朝まずめの中から切り立った崖が銀色に浮かび始め、輝きを増すにつれて黄金に変わり、迫力を増し、手前の川辺に大型の水鳥たちが集まって来たりして彩を添えると、しばらく幻想の世界に浸ることができます。ちょっと、ミステリアスな話ですが、この謎を解いてみようと思います。

時と場所

時は夏の早朝。場所は多摩川の本流に大栗川が合流するあたり。「桜が丘カントリークラブ」のコースがぎりぎりに多摩川の右岸に迫って切り落ちた地点。ここに草も木も許さず、百メートル余もむき出しになって東西に伸びている崖があります。
崖が輝くのは光を反射するからでしょう。

崖は屏風のように切り立って北方を向いています。この表面に日が射すのは、太陽が充分に高緯度まで上がっている夏場に限り、しかも光が水平に入って水平近くに反射しなければ、ヒトの目の高さには届きません。輝く崖が観られるのは、夏の朝、それも5時前後。自分は入射角と等しい反射角の延長線上にいる必要があるわけです。

崖に近づく

崖の前には、ヨシやススキや低木がぎっしりと繁茂した中洲が大きく広がっていて、かつては崖の真下まで近よるのは難しいことでした。
ところが、2019年10月12日の雨型台風19号がもたらした洪水が、中洲を大きく殺いで海に持っていってしまったので、ゴロゴロした河原を歩いて崖の近くまで行けるようになりました。それでも、真下には分流の一本が流れていて、崖に触れるまで近づくことは出来ません。
正面、上流方向、下流方向を写したものです。崖の上や左右に写っている笹竹などの丈から、切り立った斜面の高さを推測できると思います。いずれも逆光なのですが、正面の写真で青味がかった暗い池のように見えるのは、水面ではなくて、クッキリと2段に分かれた地層の下段です。タンカーの脇腹のようですね。
手前に濁って流れているのが、台風の余韻を残した多摩川です。上流、下流の写真を見比べると崖と川の位置関係が分かります。

グーグルアースによると、このあたりの多摩川水面の標高は42m、崖のてっぺんの標高は54m前後。これからすると、崖の高さは12mということになります。

タンカーの脇腹のように暗灰色に見える部分は殊に平滑で、よく見ると舌状に剥がれそうになっているところがあり、これを拡大すると、まるで羊羹を切ったように滑らかな粘土質であることが分かります。これなら斜めに射し入った光を反射させるでしょう。

このあたりの地層

崖の大部分を占める青みを帯びた暗灰色の粘土層は、氷河時代とも呼ばれる更新世に繰り返された氷期・間氷期に、海面が100m余も上昇下降するのにつれて生成された氷河堆積物です。私は地質については全くの素人ですが、まず当たっていると思います。
更新世は260万年前~1万年前までの期間を云いますが、46億年前に地球が誕生してから現在までを1mのスケールに置き換えると、260万年前というのは近々わずか0.5mmほどという極めて短い期間になります。この間に、均質の粘土がこれだけ集積したというのは、ちょっと信じ難いほどの自然の威力です。

崖の上部、茶色を帯びて粗く、いくらか傾斜が緩んで見えるのは、いわゆる関東ローム層で、浅間、榛名、赤城、箱根、富士といった火山に由来する鉱物が風化堆積したものです。

同じような粘土の層で

私の家は標高100mほどのところにありますが、近くに似たような粘土層が出ている斜面があるのを思い出しました。
写真のように、多摩川の崖と同じように滑らかな暗灰色の粘土層が露出しており、その上に樹木を茂らせたローム層が乗り、二つの層の境目から水がしたたり落ちていて、それらの全体はグーグルアースによると10mほどの崖になっています。粘土はしっとりとしていて、移植ゴテでバターのように採ることができます。
練り上げていろいろな形を作ってみようとしましたが、あまりに細かいせいか、手にくっついて思うようになりません。
ようやく、小さな団子にしてバーナーで焼いて、「石焼き芋」の下敷きを作ることにしました。このあたりに住んでいた縄文人は立派な土器を残していますから、ある割合で砂を混ぜるというような、何かコツがあるのでしょう。ゆっくり探してみるつもりです。

どうして黄金に輝くのか

粘土は、幾く種類かの鉱物が微細な粉末としていろいろな割合で混じっており、少量の水を加えてこねると、思いのままの形にすることができるものを言います。粉末たちの主成分は「含水アルミニュウム珪酸塩」ですが、それぞれにマグネシュウム、鉄、カリウム、ナトリウム、カルシュウムなどが結合して結晶をなすことが普通で、その割合でさまざまな特色が出て、それぞれの産地で特産の陶磁器が作られることはもとより、たとえばプリンター用のインクやペンキの性能向上のために混ぜられるなど、私たちの日常生活の広範囲に活用されています。
マグネシュウムとカリウムが加わって大型の結晶をなしているものに「金雲母」と呼ばれる鉱物があり、これを割ったときに滑面から銅のような閃光を反射するということです。

なんとか謎が解けそうです。
多摩川中流に剥き出しになっている問題の崖の粘土粒子として、金雲母あるいはその親戚の粘土鉱物が比較的多く含まれているとしたら、崖全体が黄金に反射してもいいのです。黄金に輝くべきなのです。
訪ねてみてください。

 

ロウボウ

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

「黄金に輝く崖」への3件のフィードバック

  1. 初めまして。
    清水と申します。
    趣味で陶芸を始めたばかりのものです。
    多摩川沿いで粘土を探していたところ、ロウボウ様のサイトにめぐりあいました。
    そこで不躾なお願いなのですが、
    「黄金に輝く崖」
    に紹介されていたご近所にある粘土層はどのあたりでしょうか?
    お教え頂けると幸いです。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    1. 「黄金に輝く崖」を読んでいただきました。ありがとうございます。
      よく似ている粘土層が露出しているところがたしかに在ります。
      八王子市大塚「中尾根公園」の下段から続いているのり面です。
      ただ、この斜面は住宅にちかじかと迫っていて、「土砂災害特別警戒区域」いわゆる「レッドゾーン」に指定されている箇所です。
      ですから、ここに立ち入って大量のサンプルなどを採集することは、さまざまな問題を起こしかねません。
      それで清水さんにおすすめは、「黄金に輝く崖」そのもの(「多摩市交通公園」のすぐ下流)にアプローチされて、粘土の採集なりをされることです。
      私が予想しますに、ここからの粘土はバターのように手にまとわりついて、普通の陶芸用の粘土のようには扱いきれないのではないかと・・・
      川砂などを混ぜてみたらどうだろうと、陽気が暖かくなったら試みてみようと思っております。
      清水さんが良い方法を見つけ出すことができましたら、ぜひ御教示ください。よろしくお願いいたします。

      1. 大変ご丁寧な返信ありがとうございました。
        ご意見を参考に「多摩都市交通公園」の採取を検討いたします。
        今後、粘土の進捗があり、
        作品ができましたら、ご報告させていただきます。

        この度は本当にありがとうございました。

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