湖とダム 海

湖とダムは北方が似合う

地球上に、湖というものは無数にあるのだろうと思います。
シベリア上空をジェット旅客機で飛んで、黒い湖が勾玉が連なったように延々と続いている光景を見た人はおおぜい居るはずです。北極圏だけでもそんなふうです。

阿寒湖、摩周湖、支笏湖、十和田湖、バイカル湖、オンタリオ湖、ネス湖・・・その深さや透明度や特有の生き物などのためもあって、それぞれに伝説とロマンに溢れています。
黒部ダム、佐久間ダム、アスワンハイダム・・・ダムもこのクラスになると、建設の途中から伝説を生んでいます。
水が堆積すると、私たちに語り掛ける不思議な力を持つようになるのでしょう。

私の家から木曽川を15分ほどさかのぼったところに「黒川」という支流を堰き止めて「黒川渡ダム」という人造湖が造られており、すぐ下の町を圧するように、いつも黒々とたたずんでいました。
後になってみれば、ほんの小さな規模のものだったのですが、幼い少年にはそんなことは分かりません。突堤を乗り越えて落ち続ける水の様子は子供にとってはナイヤガラの滝と同じことで、引き込まれて水と一緒に落下した無人のボートが岩に叩き付けられて散乱しているのを見て震えあがったことがありました。

私は長く生きて、それなりにいろいろのことに出会いました。その都度、大きな水が湖やダムのように堆積する風景が目の前に浮かぶのが癖のようになっておりましたが、それは常に、安らぎと怖れという両方の気分を同時にもたらしたものでした。

多くからの流入 一つの出口

湖やダムはそれこそ無数にありますが、そのほとんど100%について言える共通点があります。複数の川や沢からの水を集め、それをただ一か所から送り出す。これです。
たとえば、「諏訪湖」は四方八方からの水を広域に集めていますが、それを
送り出すのは一か所からであり、そこが「天竜川」の始まりとなっています。

鎮める 

大雨の度に急奔するたくさんの沢の水を受け入れ、鎮めます。
私の人生の後半は、IT技術の爆発的な発展にともなって、おびただしい情報や報道にさらされるようになりました。私はしばしば情報の洪水に溺れそうになりました。
ダムのするように、流れ込んでくるものを混ぜ合わせて鎮め、できるだけ澄んだものを一か所で取り入れることができたらと願ったものです。

温める

中学生になると、私も黒川渡ダムで水泳をすることがありました。上層は太陽からのエネルギーを蓄えて、まず泳ぎが続けられるほどに温かったのですが、平泳ぎから立ち泳ぎに移ると、腰の下のあたりからずんと冷たく、締め付けられるような感じがしました。表層は身体に馴染んできますが、その下の深みは黒く拒否的でした。
「温」と「冷」とが重なっているところが、ダムの持つ印象の「安らぎ」と「怖れ」という二面性につながるのではないかと思います。

巨大なエネルギーを制御しきれなくなると

大きく堆積した水はエネルギーを持ちます。水力発電に見るように、そのエネルギーを電力に変換するためのコントロールが効いているうちは良いのですが、想定を超す大雨が集水域に降ったときなどには、不気味なことになります。
私も身近に恐ろしさを味わったことがあります。少年のころ、建設中のダムの堤体が大雨のために越水されて崩れ、濁流の先頭が壁のようにそそり立って、両岸を削りながら流れ落ちて行ったことがありました。そのダムが作られた支流が本流に流れ込む地点が、私たちの町よりも少し下流にあったので被害を免れましたが、濁流が足元を殺いでゆくありさまを想像するだけでも総毛立つような出来事でした。

2019年10月12日。
巨大な雨型台風が日本を縦断して、ほとんどの湖やダムから本来の機能を奪ってしまうまでになりました。
人工衛星から撮られた写真があります。
東日本の太平洋岸が黄褐色の炎を上げて燃え上がっているように見えます。北から、鮫川、久慈川、那阿川、利根川、荒川、多摩川、相模川といった大きな川の河口は、濃く色付きながらどれもロウソクの先のように噴き出しています。
宇宙空間から日本列島の全体を見ると、北海道を頭にした巨大な竜のように見えることがあります。列島を縦断した災害台風の直後に竜を見たなら、その腹側の全体から、炎ではなく、膿を噴き出しているようだったかもしれません。

炎の外側の太平洋は暗いネービーブルーに鎮まっています。
地球の表面の七割を占め、その平均の深さが富士山の高さを超えるという海。ものすごい水の堆積で、日本列島からの土砂の流入ぐらい平気で飲み込んでくれているように見えます。今のところは・・・。
海から水蒸気になって雲に、雲から雨になって地上に、湖やダムや川となって海へ。
この循環がバランスよく保たれ、最も大きい水の堆積である海が蒼く健康であり続けるように、私たちに今できることは何なのでしょう。

おことわり:ダムの写真は黒川渡ダムのものではありません。黒部川の上流に作られているものです。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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