生物の中には、種類の違うもの同士が混じり合って行動することがあり、「混群」と呼ばれています。
野鳥にもしばしば観られ、私になじみ深いのは、「エナガ・シジュウカラ・コゲラ+α」の混群です。ヤマガラやメジロが加わることがあるのをαで示しています。ああ、「カワウ・ダイサギ・アオサギ・コサギ+α」というのもおなじみなものでした。このときのαというのはカラスです。
ここでは先ず、小鳥たちの混群について観ることにします。
危険を感知する能力を上げるために
野鳥ことに小鳥はそもそも、下から見上げられたときは空の明るみに紛れることで見付けられ難いように、胴や翼の下面を白っぽく彩色しており、上空から見下ろされたときには地面などの色に紛れるように、背面は暗く彩色しています。ヒトの軍用機がしばしば真似をしている通りです。
天敵のハイタカ、ツミ、モズなどから身を守るには、さらに積極的なくふうも必要でしょう。
エナガ
シジュウカラ
コゲラ
ヤマガラ
同じような動き方をする小鳥たちがあつまる
林の中を移動してゆくエナガたちの混群の中に取り囲まれると、小枝から小枝へ、ひらりと次の木の梢に、上から下に、下から上に、ひらりひらりとたくさんの小さな妖精が舞うようで、優しい網に大きく包まれたような気分になるものです。似たような動き方をする小鳥たちが混群のメンバーとして集まっています。一つの影を定めてファインダーをのぞいた時には、もうそこには何も居ません。さいわい飛び移る距離が短いので、視野を広めに取っておくと、先々を追える率が高くなります。こういうことにも練習効果があって、だんだん上手になるようです。
エナガ
コゲラ
シジュウカラ
目の数が増えるばかりか、配置の層が厚くなる
エナガは雑食性ですがアブラムシが大好物なので、幹や太い枝よりも、アブラムシが繁殖しやすい小枝や葉の裏を中心に採餌します。可愛らしいクチバシは、大きな虫を引きずりだしたり、木の実を割ったりするのは上手ではなく、小さなものをこまめに摘まみ取るのに向いているでしょう。
シジュウカラはスズメ大でクチバシもがっしりしており、大小の幹や下生などに潜む昆虫などをエサにするのが得意そうに見えます。じっさい混群では、梢と地面との中間のあたりで活動していることが多いようです。エナガと組みあうと、カバーできる空間が広くなります。
コゲラは日本に棲むキツツキのうちでは最小で、スズメほどの大きさしかありませんが、キツツキとしての性能は全て備えています。「ココココ…」というドラミングと「ギーッギーッ」という鳴き声は力強く、木を叩く衝撃から頭脳を守る仕組みや、飛び散る小片が目に当たるのを防ぐ工夫も万全です。
混群に混じる個体数は多くはないものの、一説によるとコゲラは音声で仲間たちとコミュニケーションを取れる能力もあるということから、近くに居る小鳥たちの群も危険を察知する助けとしているかもしれません。
コゲラの作業ぶりを見てください。クチバシの根元に傘状に羽毛を拡げてチリを被るのを防いでおり、さらに瞬膜と呼ばれるゴーグル状のものが縦に開閉しているのが分かります。こうして、他のメンバーには獲れないような獲物を捕らえることができており、競合を避けられているのだと思われます。
採餌する時間を増やすために
エナガは主として上空。シジュウカラとコゲラは下と横。あたりにすっぽりとレーダーを巡らしているようなものですから、採餌する時間が長くなることになります。小鳥たちは小さな身体をフル回転させて生きています。そのエネルギーを保つためにも、食べ物を探す時間を長くすることは何よりのメリットなのです。
襲われたとき 被害を少なくするために
林の一部にレーダーを被せて移動しているようなものの、警戒網を突破されることはあるはずで、そうしたとき、一部が警報を発することで混群全体が回避行動をとれることになります。相手がツミやモズであれば、力を合わせて闘うこともできるわけです。海でイワシなどが大きな群れを作るのと似通ったところがあると思います。
+αの小鳥たち
混群の常連は、エナガを中心にしてシジュウカラとコゲラですが、ヤマガラとメジロが数羽ずつ加わることがあります。
ヤマガラは常連たちと同じく雑食性ですが、虫よりも木の実を好むようです。メジロも雑草性ですが、さらに、花の蜜や果実を好みます。嗜好にずれがあることは群れにとってマイナスではありませんし、小刻みでせわしない動き方が共通していることから、レーダーを大きくできるというメリットから互いに歓迎すべきことなのでしょう。
ヤマガラ
メジロ
私は、混群が大きくなればなるほど、それに取り巻かれたアブラムシや小昆虫たちが気配を察してざわめき立つために、捕食しやすくなるのではないかと想像することがあります。私たちには分からない感覚の世界です。
たとえば、コゲラが特有の速いドラミングを轟かすと、コゲラがとりついている木々はもとより周辺にまでおよぶ振動を察知して、虫たちは一種のパニック状態になってしまうというような状況は考えられないでしょうか。
生き物たちは、どれも懸命です。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。