漢字では「嘴広鴨」、英語では「shoveler」。そのとおり、クチバシが長くてシャベルのように広がっていることから「ハシビロガモ」と呼ばれるようになりました。
50㎝ほどの大きさでマガモよりもいくらか小型。雑食性で、プランクトン、昆虫、種子、魚などを広く食べるために、けっこうに淀んで栄養の良すぎるような都会の池にも飛来し、東京都区内でも、新宿御苑や皇居の濠などで見られます。
カモのなかでも色目の美しい鳥
てんでに横並びしているところを見てみましょう。オスは頭から頸にかけて光沢のある深い緑色、クチバシは黒く、胸から腹は白、脇腹は赤味のある茶色で、羽を広げるとさらに鮮やかなエメラルド色が目に付きます。
メスは全身が褐色に印象されるうえに、クチバシにまでソバカスのように黒斑点が散っているという地味ぶりですが、羽を開くと羽毛がはっきりと白く縁どられているのが目立って、けっこうに美しいものです。夫婦でいると、オシドリに負けないと思います。オシドリよりもこちらを好む人も多いのではないでしょうか。
みんなで渦を作って食糧集め
ばらばらに浮かんでいたハシビロガモたちが、何かの合図で集まりはじめ、密集し、スポーツの選手が肩を寄せ合って円陣を組むような形になります。
やがて、直径3メートルほどになった輪が回転を始めます。
左へ左へ、しばらくすると反対に右へ右へ。かなりの速さで回転しながら移動してゆきます。ぴちゃぴちゃきらきら。とても楽しそうです。プランクトンばかりか何だって渦の中央へと集められますから、小さな獲物を1羽ずつで追っているよりも効率が良いに違いありません。遠い日に獲得した知恵でありましょう。
シロナガスクジラのような食べ方
ハジロガモは食べ物を水ごと口の中に入れ込み、クチバシの両側に密に並んだクシ状の突起を通して濾し取り、水だけをクチバシの脇から流し出します。
地球史上最大の動物である「シロナガスクジラ」が鯨髭でオキアミを濾し取って食べるやり方とよく似ています。全く違った種の間で習性やノウハウが似通っているというのは、考えさせられるものがあります。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。