まさかの優しいつぶやき イカル

まるで礼拝堂に迷い込んだように

数年前、木の芽が動き始めるかという早春の頃。
とある林の中に踏み入って・・・足が止まってしまいました。
木々たちが歌っている!
控え目で優しい音色が、林全体を包み込んでいたのです。

重なり合った枝の中に、何羽かのイカルが見付かりました。
灰色の全体に、烏天狗のような巨大なクチバシ。そのクチバシは黄色。太めのムクドリといったドスノ効いたシルエット・・・見間違いようもありません。
春のBGM・・・まさか。これがこわもてのイカルたちによって奏でられているとは、その時は気付きませんでした。

イカルの鳴き声「さえずり」といえば、「イカルコキー」「キーコキーキー」「お菊二十四」「蓑笠着い」「月・星・日」などと聞きなされています。
私には「特急列車来い!」としか聞こえない甲高いもので・・・ホームの黄色線から下がって待てというような警告だとすればピッタリの調子だと思います。
おしまいが「キーッ」とか「ヒーッ」と切り上がって鋭く響き渡るもので、あたりを包み込むようなBGM風とは正反対です。
「イカルコキー」という聞きなしから「イカル」という名前が、「月・星・日」と聞いたことから「三光鳥」という呼び方が、それぞれ生まれています。

すると、春のBGMは「さえずり」ではなく「地鳴き」だということになりますが、イカルの地鳴きというのは「キヨッキヨッ」という比較的単純で短いものだと説明されており、私も「そんなところだろう」と思い込んでしまっていたわけです。

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奇跡のV字回復 オナガ

黒いスイミングキャップを被って、全体はくすんだ水色。
ヒヨドリほどの大きさの身体に目立って長い尾。それでオナガ。
トレーマークの長い尾をなびかせながら、縦隊になってするすると木立を縫うありさまには、舞を見るような独特な雰囲気があります。
スマートさに似合わず「ギューィ ゲーイ ギー」などと鳴き交わすのが似合っているような、そうでないような・・・。


不思議な盛衰

4・50年前から繁殖が激減しました。
全く新しい托卵先として、「カッコウ」に目を付けられたための災難で、「托卵」ということに未経験だったオナガは良いように利用され、殊に西日本ではほとんど姿が見られなくなったといいます。
カッコウのヒナはセッティングされた通りにオナガの卵たちよりも少し前に孵化し、この世にあらわれて一番初めにすることは・・・仮の兄弟たちの入った卵を背中に当ててエンヤコラ。一つまた一つ、巣の縁まで持ち上げて押し出してしまうという仕事です。勿論、仮の兄弟たちは落下して潰れてしまいます。
羽毛も生えてない鳥肌、眼も見えているのかどうか。こんな時期になされる鬼気迫る奮闘で、兄弟のことごとくを始末するまで止めはしません。
だまされた里親が運んでくる餌を独り占めするためにすることですが・・・カッコウは「半端ない」のです。

数十年間、関東でもオナガの個体数は減少しました。
たまに見かけることがあっても、ぼそぼそに毛羽立って、すくみあがっているかのようでした。

一族の命運は尽きるかというときに・・・

オナガはカラスの親戚であるだけに、学習能力が高く、団結して行動する能力もなかなかのもののようです。

何が起こっているかを理解するようになったのです。
あわやというタイミングで、エナガたちは巣に産み付けられたカッコウの卵を見分けて、つまみ出してしまう眼力を備えることができました。
さらには、グループで見張っていて、カッコウがあたりに近づくと激しく攻撃して駆逐するようになったといいます。
あやうく逆転のV字回復。進化というものは驚くほどの短期間で進むことがあるという実例だとされています。

そうしたわけで、この頃また、オナガにお目にかかれるようになりました。
冬の終わりの頃に私が出会った群れは、互いに見張りを置きながら悠々と水を飲み合っておりました。長いシッポを振り立て振り立て・・・。


一時期よりも色つやが良くなり、体格もがっしりしてきて、群れは自信に溢れているようです。楽しそうです。
私にはそのように映ります。

空飛ぶマシュマロ エナガ

冬枯れの林の中で

冬枯れの林の中で、下生えの雑草がきれいに色付いているのを、しゃがみこんで見ていた時のことです。
ひらりと動くものを感じたので、ふと目を上げると、私は結構に賑やかなエナガの群れのただなかに居たのでした。

私を包み込むように、ひらりひらり。あちらでもこちらでも。
エナガたちは絡みついて霜枯れている蔓の葉を、一つ一つ入念に品定めをしているように見えました。虫の卵などをほじくり出しているのでしょう。
それぞれ勝手に飛び移っているようでいて、群れ全体は一定の方向に一定のリズムで移動しておりました。

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