御馳走を探す小鳥たち キュート派3 ヤマガラ

人なつこく ユーモラス

散歩の途中の公園や雑木林などで、スズメほどの小鳥がそこかしこと飛び動いているのが目に付き、黒いマフラーと茶色のマエカケが目立つようであれば、それはほぼ間違いなく「ヤマガラ」です。

「エサ台にピーナツを置いていたんだけど、だんだん近寄るようになって、とうとう手の平から持っていくようになったんだよ」という話を聞くことがあります。
ヤマガラは、とても人なつこいのです。それに、仕草や表情にどこかユーモラスというか剽軽というか、特有な雰囲気が感じられるものです。写真を見ただけでも分かるのではないでしょうか。

人なつこいどころか、ものすごい芸をこなしているのを見たことがあります。

失われた無形文化財? 「ヤマガラの御神籤引き」

昭和30年代に、私は山国で少年時代を過ごしました。
年に一度の氏神様の夏祭りは、大きな白木の神輿を粉々にするまで転がすことで知られていて、楽しみの少なかった時代には結構に賑わったものです。
木曽川沿いの街道にたくさんの露店や屋台が並びましたが、その中に「ヤマガラのオミクジ引き」というのが出る年がありました。
見物客の中からいくらかの心付けがあるたびに、お客さんに代わって、1羽のヤマガラが御神籤を引いてきて渡すという趣向でした。

ミニチュアの社殿と竹ひごで作られた鳥籠とが60〜70㎝ほど離されて向かい合わせに置かれているのが舞台でした。ざわめきの中でヤマガラは堂々、複雑な演技を繰り返すのです。
籠から出されると、1円玉ほどの小さなコインを主人から受け取り、止まり木を並べて作られた参道をチョンチョンと進み、赤い鳥居を越え、賽銭箱にコインを投げ入れ、鈴を鳴らし、社殿の扉をつついて開き、中から白いお神籤を1枚くわえだし、反転してチョンチョンと戻り、お神籤を主人に渡し、小さな餌(たぶん麻の実)を貰って籠に戻る。竹籠はヤマガラの舞台裏であるらしく風呂敷のようなものが被されておりましたが、ヤマガラが実を割る音が小さく聞こえていたような気がします。

なんと、ヤマガラ芸にもいくつかのバリエーションがあり、その発祥は平安時代までさかのぼるだそうです。
誰がヤマガラの特性を知って、どういうきっかけで始めたものでしょう。子犬にオスワリを教えるだけでも苦労している私には、不思議なだけです。
野鳥を飼うことが法令で禁止され、なによりも縁日といった催しが減ってゆき、とうとう、「ヤマガラの御神籤引き」は見られなくなってしまったようです。

柔らかな脳味噌

ヤマガラが柔らかい頭脳を持っているのは、次のような行動からも知ることができます。

「エゴ」という落葉樹があります。
6月に白い小さな花をいっぱい咲かせて、それをみんな実にして、房のようにたくさん垂らします。エゴの実は舌がしびれるほどえぐい(えごい)ことで知られ、エゴサポニンという有毒物質を含んでいます。その毒性は相当なもので、エゴの実を砕いたものを川に流して魚を獲ることがなされたそうです。魚がふらふらになってしまうのでしょう。

不思議なことに、ヤマガラの大好物が「エゴの実」なのです。
えぐくて毒があるのに?
よく観察していると、ヤマガラはエゴの実をすぐに食べてはいません。長い柄の先を咥えては、せっせとどこかに運んでゆきます。冬に備えて食べ物として貯蔵しているのです。


それで?
毒があるので貯蔵庫が荒らされることも少なかろうと思われます。エゴサポニンは11月頃になると急激に毒性を低下させてしまうので、真冬にはヤマガラにとっても安心な食べ物になるのでしょう。
ヤマガラはそうしたことを知っているのです。

頑丈な頭蓋骨?

エゴの実は硬い殻を被っています。
冬の林の中、エゴの実を掘り出したヤマガラが近くの木の枝で、「コッコッ カッカッ」と殻を割ろうとしているのに出会うことがあります。
エゴの実に限らず、両脚で固定したドングリほどのものを、ヤマガラがたいそうな権幕でつついているのはよく見られる光景ですが、春先になると、まるで小型のキツツキのように、木の実ならぬ樹の幹をつつき廻しながら移動しているのを見ることがあります。

キツツキが脳震盪を起こさないわけ
キツツキ類は、クチバシをノミのように、頭をハンマーのように使うので、激しい衝撃(時速30㎞で壁に頭をぶつけるくらい)から脳味噌を守るために特別な工夫をしています。
クチバシの根元の筋肉を重層に発達させてクッションとし、頭蓋の下にスポンジ状の網を張り、さらに、頭蓋骨ごとを長い舌でぐるりと包み込んで守っているのです。

ヤマガラは大丈夫?
春先に撮られた動画を見ると、ヤマガラも、腰を据えて気合を入れ、足を支点にしたハンマーのように全身を使って、けっこう激しい打撃を続けています。
脳を守るのにどのような工夫があるのでしょう。ヤマガラ固有の何かがあるはずですが…。

頑丈な頭蓋骨に柔らかな脳

大型の木の実を食べるのを得意にしている小鳥といえばイカルやシメやウソが代表です。彼らのクチバシは、大きく丈夫そうで、顔の全体を占めるようにピラミッド型に鎮座しているといったふうです。堅い殻をバリバリと噛み割ることができます。

一方で、キツツキ類のアオゲラやアカゲラなどは、木屑が飛び散るほどに樹をうがつので、そのクチバシは根元が太く先が細く、顔面にがっしりと植え込まれていて、まるでノミのようです。
そして、木の実を両脚の間に固定してつつき割るのが得意な小鳥に、小型ながらヤマガラやシジュウカラがあり、クチバシはそれぞれ結構に頑丈そうで、イカルとキツツキの中間の形をしていると云えそうです。

それで、ヤマガラ固有の工夫とは?
超高速動画、解剖と標本集め、X線検査などを積み上げればヤマガラ固有のカラクリが分かり、それをヒントにして、全く新しい原理の防災用ヘルメットなどが現れるかも知れません。😊
残念なことに、私にはそれを待っている時間が無さそうです。

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

「御馳走を探す小鳥たち キュート派3 ヤマガラ」への5件のフィードバック

  1. ろうぼう先生
    大変ご無沙汰しております。
    暑中お見舞い申し上げます。
    暑い、暑い夏ですね。
    お元気そうで何よりです。

    ヤマガラの記事、面白く、驚きながら拝見しました。鳥あたまなどとは呼べませんね。
    野鳥は姿だけが違い、中身は同じようなものだろうと思い込んでいました。
    ところが、種類によりこんなに愉快な、びっくりする芸達者な鳥さんがいるのですね!
    今回もまた楽しい記事をありがとうございます。先生のことを思い出すと、自分もまだまだ頑張ろうと勇気が湧いてきます。ありがとうございます。
    どうぞ、ご自愛ください!

    1. 返信が遅れました。
      お元気そうで何よりです。
      日本列島のほとんどが水びたり。私の故郷の川も氾濫寸前です!
      そちらは大雨からは免れているようですが、例年になく、温度の差が大きいようですね。

      鳥は「三歩歩くとなんとやら・・・」と云われていますが、一方で、ツバメは遠い飛行をして日本の一点に帰ってきますし、メジロなどは遥か昔からクモの糸の強さを知っています。カイツブリなどは、空と水と陸を自由自在です。鳥たちの呼吸器官は私たちよりも明らかに優れています。なにが頭が良いというのかは、難しくなってきますね。
      ヒトは、縄張り争いに戦争を繰り返して、原子力、細菌、毒ガス・・・なんだって使うくせに、ウィルス一つままならない。これってお利巧ですかね。

      お互い、コツコツ頑張るしかありません。そうしましょう。

  2. ロウボウ先生
    お返事ありがとうございます。
    温かな言葉に気持ちが解れてくるのがわかります。
    なんと人間の愚かなことか。
    我が国は先進国と名乗るのが憚られるほど、恥ずかしい姿を晒しています。
    これでもか、と自然は容赦なく襲い掛かってきます。ウィルスも、、人間がしてきたことへのしっぺ返しのように。
    先生、我が家は今のっぴきならない川の底にいるようです。
    コツコツいきます。
    先生がなさってきたお仕事のように、諦めずがんばりたいです。
    ありがとうございます。
    どうかどうか、ご自愛ください。

    1. 貴方のように、いっとき底に潜んでしばらく頑張るというのが一番だと思うのです。川を逆さに流すことは出来そうもありませんから・・・。

      故郷の木曽御嶽山には雨が多く、その都度、沢は大水で抉られるのですが、そうしたところに「渓流の女王」と呼ばれる「大岩魚(おおいわな)」が棲息しています。
      彼女たちは、沢の底の大きな岩の陰に沈んで、荒々しい水をやり過ごすのです。

      途切れのないことはありません。頑張ってください。

  3. ありがとうございます。何度も読みました。大岩魚のように、今は岩陰にじっとして荒々しい時間をやり過ごそうと思います。
    気持ちに手を当てて、言葉をかけてくださりありがとうございます。深く沁みました。がんばります。
    先生もどうかお身体に気をつけてお過ごしください。感謝。

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