転ばぬ先の杖 ステッキを作る


~朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足で歩くものはなんじゃ?~

 私もヒトのうちに属していますから、いつの頃からかしゃがんだ姿勢から立ち上がるのがしんどくなり、やがて何でもなかったものに躓くようになり、このところは普通に歩くのが不安定になってきました。

先ずはステッキを用意しておこうと

 子犬と連れだって近くの公園に行くには、先ずはシンプルな棒状の杖が頼りになるだろうとネットで当たってみると・・・あるはあるは・・・ハイキングステッキとかトレッキングポールとか呼ばれている商品が、それぞれにうたい文句も華やかに、ずらりと並んでいます。
 例外なく、太く加工された握りの部分に抜け落ちを防ぐための頑丈な紐がループ状に付けられていて、スキーのストックによく似ています。「さあトレッキングに出かけましょう」と呼びかけて来るようで、子犬と近くをよろついて来るといった使い方とは、イメージからして違っているのでした。

竹で杖を自作する

必要なもの
① 竹         
② 先端のゴムキャップ 
③ 革の小片     
④ 接着剤        
⑤ 小さなネジクギ   
⑥ その他 工作に必要なカセットコンロ 雑巾など

① 竹について
 これが一番手に入れにくい物でありましょう。近くに竹藪があれば、持ち主に頼んで何本かを切らしてもらいます。大抵はOKが出ます。
こだわるのなら、ホテイチクという種類であると、根元の部分に節が集まる特有な形をしているので握り易くなります。どんな種類であっても、タケノコが硬くなったばかりというような若い竹は避けます。3年物ほどが一番丈夫だとされているようです。

 長さは110~130cm。先端の外径9~13mm。出来るだけ真っ直ぐなもの。
 持ち帰ったら「油抜き」と言われる処理が必要です。カセットコンロなどの上にかざして焦げない程度にまで焙り、浮き上がってきた油を布片で拭き取ると、竹にこびり付いていた汚れも取れて驚くほど綺麗になって、持ちも良くなります。写真では、熱効率を良くするために植木鉢をカットしたものが写っていますが、これは必須なものではありません。

 竹が曲がっていたら修正する必要があります。節の前後を更に焙り、柔らくなったところで真っ直ぐになるまで矯め、そのまま水で冷やします。矯める際に、写真のように斜めにコの字を切り込んだような治具を用意しておくと便利です。

 多摩川の中流の河川敷には竹が群生しているところが幾つもあり、そのうちのいくつかはホテイチクです。「マムシ注意!」と立札が呼びかけているように危険であるようで、それぞれの自治体が間引き伐採をすることがあります。遊歩道の両側に積み上げてある山の中から、これぞというものを貰って来ることも出来ましょう。

② 先端のゴムキャップについて
 例えば「トレッキングポールのキャップ」と検索すると、内径8~13mmのゴム製の保護キャップが選り取り見取りです。先に竹を整え、その先端の外径を測ってから注文するのが良かろうと思います。ゴムですから多少の誤差があってもフィット出来ます。

③ 革の小片について
 ニギリの部分の滑り止めのために巻き付けます。大きさや形はお好みです。厚手の革を一回巻きにして、合わせの部分を写真のようにX印に縫っても良し、テープ状のものを包帯のように巻き上げてもOKです。いずれも要所を接着剤で止めておきます。

④ 接着剤について
「ゴム・革用」を使いますが、写真の下の製品には「竹も接着できる」とある通り、杖を使っていて剥がれがありません。上段の「ボンドG17」も成分はほとんど同じことからセカンドチョイスです。どれも100均ストアで求めました。

⑤ 小さなネジクギについて
 握りの先端の革は手が一番当たる部分であるだけに、ここから剥がれ易くなります。ここをせいぜい長さ5mmほどのナベネジ(頭が丸い小ネジ)で止めておきます。竹であるだけに、下穴を必要十分に開けておかないとピッと裂けることがあるので注意が必要です。

 というわけで、ステッキが5本出来ました。その日の気分に合わせて選ぶのですが、どれも竹に特有のしなりが有って軽く、なかなかに気持ち良く使えます。
 子犬は横目で窺っていることがあります。私がやたらに振り回したり、他の犬とすれ違う時などに、子犬を制御するかのように使うことがあるからでしょう。

本格的なステッキを作る

 しばらくすると、喜劇王チャプリンが愛用しているような、丸い柄が付いたスタンダードなステッキを作れないものかと考えるようになりました。例えば病院を受診するときには、どこそこに立て掛けて置く必要があるだろうことからも、丸い持ち手があった方が便利で安全だろうと思われました。

 
必要なもの
① 竹
② 古いコーモリ傘
③ 先端のゴムキャップ
④ 絶縁テープ
⑤ その他 ディスクグラインダー(無ければ金切り鋸)

① 竹について
前に述べたことと同じ下処理が必要ですが、大事なことが一つ。根元の方に、コウモリ傘の鉄芯(通常外径10mm、大型のものだと12mm)をほぼすんなり挿入できる竹を選ぶ必要があります。多少のがたつきがあっても、鉄芯に絶縁テープを巻き付けることで修正できます。

② 古いコーモリ傘について
 コーモリ傘に付いている半円の柄を活用します。
 棒状の竹をコーモリ傘の柄のように半円に曲げられれば一番良いのですが、私は2・3度トライしただけで諦めてしまい、コーモリ傘の柄を再利用することになりました。竹を丸ごと曲げる方法をご存知の方に、是非ご伝授願いたいものです。
 コーモリ傘を開いて、写真のような個所を切断してゆけば、簡単に鉄芯を抜き出すことが出来ます。ディスクグラインダーがあればアッという間ですが、金切り鋸を使ってもOKです。

組み合わせについて
 竹に差し込む鉄芯の部分が長ければ長いほど、ステッキは丈夫になるはずですが、細い竹の節を抜くことはまず無理です。それで、根元の方の切り口と最初の節との間を出来るだけ長くするようにし、それに合わして鉄芯を切断して挿入します。ゆるゆるであれば、鉄芯に絶縁テープを繃帯状に巻き付けて調整します。強引に押し込むと竹が裂けてしまうことがあるので慎重に。

 私の経験によると、鉄芯は15㎝も入っていればステッキに相当の体重を預けても大丈夫です。耐えられずに折れ曲がるとしたら、竹の切り口の方が裂けてくるはずなので、切り口に絶縁テープを巻いて保護しておきます。
 ステッキの長さ(身長÷2+3㎝)を決めて切断します。竹の先端の外径を測って、それに適合するサイズのゴムキャップを注文します。上の写真では、ゴムキャップも鉄芯で繋ぐようになっていますが、竹の先をすっぽり包み込めるサイズのキャップがあれば、この手間は省けます。
 これで完成です。


お断り

 ステッキと一緒に外出すると、これまで見過ごしていた様々なことに気付くことが出来て、新鮮な思いをすることがあります。例えば病院では、総合受付、各科外来窓口、待合室、トイレ、自動精算機などに、ステッキを挟んで立て掛けて置くためのちょっとした器具が取り付けられているのに気付き、或る受付では「きれいな杖ですね」と声を掛けられてびっくりしたことがあります。片手にカバンとステッキを同時に持って歩くと、互いに邪魔しあって安全どころではなくなるということも身を以て知りました。そしてなんと、電車の中では席を譲られるのでした。
 さて、終わりにお断りしなければなりません。ポール状であれ、ステッキ状であれ、自分で作ったからには量産品の匂いから抜け出た、世界でたった一つの道具なのですが、その強度については計算したものでも測定したものでもありません。自分で責任を負うことになります。私個人の感じとしては普段使いに十分耐えられそうなので、これからも誇りを持って使ってゆこうと思っております。・・・自分で作ったものですから・・・。