トランプ砲が吼える度に世界中の株が乱高下している。そのタイミングと大きさを予測できるトランプ当人とその取り巻きは、濡れ手に粟どころか札束に溺れるほどの大儲けを繰り返しているのではなかろうか。だから何度でも大砲をぶっ放す。
・・・ど素人のゲスの勘繰りであればいいが・・・。
目次
Ⅰ 結論
Ⅱ うらやましいアメリカの舞台
Ⅲ せっかくの恵みを活かし損ねている
Ⅳ アメリカのさまざまな歪み
Ⅴ 驚くべき富の偏在
Ⅵ それでもアメリカは膨張を続ける
Ⅶ アメリカは何処へ行く
Ⅷ 私たちは何をしているか
Ⅸ 私たちはどうすればいいか
Ⅹ そして結論の結論
Ⅰ 結論
アメリカは広大な国土を有し、世界最大の石油と天然ガスの産出国であり、鉱物資源についても最大級の埋蔵量を誇る。
それに見合って、人々は質の高い安定した生活を送れているかというと、これがそうではない。平均寿命は先進国中で最も短いうえに年を追って短くなってゆく傾向があり、乳幼児死亡率、相対的貧困率、ホームレス、肥満者、無保険者の率などが異様に高い。
アメリカが伝統的に選択してきた市場経済主義は、近年の通信関連技術の発展に伴って国際的にも連動する性格を強めてきており、国境を跨いで転がりまわる資本は本家のアメリカの製造業に置いてけぼりを喰らわすようになった。中國を「世界の工場」に、アメリカを圧倒的な「通信関連サービスの提供者」にと役割を分担するまでになったのである。
それにしてもアメリカのサービス業(GAFAMなど)の生産性は高く、世界中で利益を生んで還流させ続けている。が、残念ながら、その分配については市場に任され、途方もない富の偏在が加速されることになった。それは機会の不均等をもたらしているにもかかわらず、それでも人々は「努力すればアメリカンドリームを手にすることが出来る」と信じ込んでいる節がある。自分が富裕になれないのは勤勉が足らなかったために神に選ばれなかったのであるとし、その鬱屈を慰めるためになけなしの金を払ってライフル銃を買って撫でまわし、ジャンクフッドで空腹を満たそうとする。
こうした歪みから抜け出すには、税制を工夫して富の偏在を是正してゆくことが特効薬であるに決まっているが、アメリカの貧困層は日頃の鬱屈をトランプに託してしまった。トランプこそが美味い汁を吸っている金持ちエリートどもを懲らしめてくれるだろうと思ったのであろう。
そのトランプは矛盾している。この記事を書いているフーテンのような老人にも分かることである。
自分に投票してくれた層に向かっては「規制」を連呼し、移民を規制し、これ見よがしに国境に壁を築き、関税や為替レートに激しく干渉して貿易を取り仕切ろうとする。
その一方、真逆の「脱規制」を強行して弱肉強食を煽る。パリ協定とWHOから離脱し、連邦政府職員を大量に解雇し、金融政策を策定監督するFRB(中央銀行に相当)の存在すら煙たがり、やりたい放題とはこうあるべきだと言わんばかりにハイテンションの富豪たちを後ろ盾に並べて見せる。そうしてどうも、「規制」は貧困層に向けたジェスチャーであり、本当にしたいことは「脱規制」の方であるらしい。
規制と脱規制という正反対の中で折り合いを付けてゆこうとするのだから、どういう舵の取り方があるのかわからないけれども、これからのアメリカは大きく蛇行するに決まっている。さらに、他国の領土や地下資源に色目を使い、アメリカは世界中から騙されているのだと大声を上げ、やたらに取り仕切りたがる有り様は、愚連隊崩れが肩を揺すっているようにさえ映る。
トランプが躍起になって問題にしているアメリカの貿易赤字は、あの国のGDPのほとんどを支えているサービス関連業の巨大さと高い生産性に起因している。そうした構造はアメリカ自身が選択して作り上げたものである。
立役者のサービス業は非貿易財であるから、外国で大量に買われても輸出としてカウントされず、貿易収支は赤字となって目立つのは当たり前である。ドルの強さを証明しているようなものだから、放っておいてもかまわないのである。例えば、国民の所得が世界一として知られるルクセンブルグは得意の金融サービスを売りにしているから、当然、貿易収支は恒常的に大きく赤字である。
アメリカがどうしても貿易赤字を是正したいのであれば、自国の巨大すぎるサービス関連企業にしかるべき税を上乗せ、それを財源にして製造業にテコ入れをし、製品の質を整えてから、正々堂々と国際市場に問うべきである。
アメリカの有権者にお願いしたい。国土狭隘で天然資源に恵まれず、たっぷりなのは大型の自然災害だけというような、例えば極東の小さな島国日本が、出来るだけ多くの国々と繋がり合うことで沈没を免れ、あれこれしながらも平均寿命と乳幼児死亡率とで最も良い成果を保っている。そうした懸命さを少しは思ってみて欲しい。
Ⅱ うらやましいアメリカの舞台
石油も天然ガスも鉱物も・・・アメリカの国土はアメリカ人に微笑んでくれている。何といっても強みである。
近年のアメリカの石油生産量は、サウジアラビア、ロシア、カナダなどを凌駕して世界のトップを占める(図1)。
天然ガスの生産量も、ロシア、中国、イラン、カナダなどを超えて全世界の24.2%を産出してこれまた世界のトップ(図2)。
国土は広大で地層も様々であることから、石炭、金、銅、亜鉛、その他の鉱物資源にも恵まれており、世界最大級の埋蔵量を誇っている。
Ⅲ せっかくの恵みを活かし損ねている
狭小な国土、有るのは大型の自然災害だけといった日本からすれば、夢のような、じれったくなるばかりの舞台であるが、その活用の仕方が下手というか、歪んでいる。
先ずは、工業生産高(図3)。
2020年、アメリカの工業生産高が世界に占める率は16.3%に縮んでしまっている。なんと、中華人民共和国のおよそ半分である。
赤い円で示したが、二度の大戦後、殊に第二次世界大戦直後には、疲弊した世界を尻目にアメリカの工業生産高は全世界の半分にも達していたのである。アメリカは経済、軍事、文化の総合として圧倒的に抜きんでており、世界から仰ぎ見られていた。
どうしてアメリカの工業生産は相対的に縮んでしまったのだろう。
諸外国(殊に日本とドイツ)のめざましい復興が先行して作用したであろうが、続いて何といっても、行き詰まった共産中国が資本主義に大きく舵を切ったことが大きい。
中国に鄧小平というしたたかな政治家が現れ、「黒猫でも白猫でもネズミを捕る猫が良い猫」「計画経済であれ市場経済であれ、生産力を上げて富の配分を多くするのが良い実践」などとし、共産党の独裁を維持しながら資本主義の仕組みを取り入れた。
1978年には日本を訪れ、カラーテレビや自動車の生産ラインを視察し、新幹線を試乗し「これこそ中国が学ぶべきことだ」と絶賛した。
解放された新しい市場と人的資源に殊にアメリカと日本の資本は興奮し、安い労働力をあてにして最新の工作機械とノウハウを中国に投入する。飛び付くようにして中国は稼働を始め、次第に複雑な製品を手懸けられるようになり、技術を組み合わせたより高度な物へ、それにつれて輸出するものも日用雑貨や衣類のレベルからTVや冷蔵庫などの家電などへ、コンピューターや通信機器などへ、ついにはEVや高速鉄道一式などへと発展してゆく。中国は短時日のうちに「世界の工場」と呼ばれるまでになった。
一方、20世紀後半から始まったデジタル革命は、たちまちインターネットの普及をもたらしたが、革新の先頭を走ったアメリカ資本は、地球丸ごとを自分流のネットでくるみこんでしまうことに夢中になった。ネットサービスは世界経済に大きな影響を及ぼすようになることを予想したのである。
アメリカは成功した。インターネット時代を先駆けてシステムやサービスの基盤を提供し続け、2010年ごろに世界が気付いて愕然とすることになるが、GAFAMと略称される米国の5大ネットサービス関連企業などが強大な市場支配力を持つ怪物に育っており、独占的な利益を得るとともに世界中の人々から情報を掻き集め、分析し、影響を与え続けるまでになってしまっていた。
「世界の工場」は中国に、「世界のサービス業」はアメリカに・・・。これを意図したのはアメリカ自身である。自国のGDPの構成比で一次・二次産業を著しく縮小させ、それを担っている労働者の有用性を低め、人材を遠ざけ、生産手段や製造技術の改良への意欲を低めてしまったのもアメリカ自身の選択の結果である。
サービス資本は一刻も休まずに世界中を飛び回っていよいよ肥大し、利益を吸収し続けてアメリカ経済を好調に発展させ続けたが、一方で富の極端な偏在をもたらすことになった。富の偏在は大部分の人々のフラストレーションと互いへの不信感を高めた。利便性は多様性を容認しあうゆとりを保ち難くしてしまいがちである。例えばSNSなどを使った発信は、真偽を確かめる間も無く、あっという間に攻撃的に炎上することを日常的な出来事にしてしまった。
Ⅳ アメリカのさまざまな歪み
平均寿命と乳幼児死亡率は、その社会の民生の成熟度を表す端的な指標の一つであることには間違いはない。
2021年のいわゆる先進諸国の平均寿命を見てみる(図4)。
アメリカが76.3歳で最も短く、なんと、驚くべきことに年を追って短くなって行く傾向があるのである。アメリカ社会は退歩しつつあるのだろうか。極東の小さな島国である日本が84.5歳で最も長く、意外なことのようであるがプーチン政権下のロシアは数年の間に目立って伸びている。
乳幼児死亡率(図5)。ここでもアメリカは先進国中で最下位であり、日本が最
上位にある。
肥満者の率(図6)。
これもアメリカ社会が群を抜いて多く、日本が最小である。アメリカでは、貧困~ジャンクフッド~肥満という相関が言われている。
2022年の相対的貧困率(図7)。 アメリカはポイントを上げつつある。
路上や公有地で暮らしている人を「ホームレス」としてカウントした資料がある(図8)。人口10万人当たりの人数であるが、アメリカはこれも高値を示す。何事も「自己責任」という考え方なのであろう。
ホームレスは地方自治体などによるちょっとした介入で大きく変化するのが特徴であり、例えば日本では数年前まではかなりのものであったものが、主に地方自治体やNPOなどの工夫で大きく減少したという実践があるという。
Ⅴ 驚くべき富の偏在
アメリカの富の偏在には恐ろしいものがある(図9)。
上位1%の所帯が国全体の富の32%を占め、上位10%ともなると72%にもなり、上位50%の所帯の所有する富が98%にもなる。ということは、下位50%の所帯は全体の富の僅か2%しか持っていないのである。そして、金は金を吸い寄せるという性を持っているから、富める者がいっそう豊かになるのは速く、貧しいものはなかなか苦境から抜け出せない。少しでも投資に回せる余裕のある人は、おこぼれにあずかって一層余裕を得られる可能性が高く、一方、日々の基本的な消費に追われている人がゆとりを得られるように浮上するチャンスは極めて少ない。なるほど、アメリカは真っ二つに分断するわけである。
小さな政府、個人や企業の経済活動の自由、つまり「市場原理主義」のもと、社会保障制度は最低所得者や高齢者に対してわずかに配慮されているだけで、たとえば公的医療保険制度は整備されてこなかった。人々は私的に医療保険に加入しなければならないが、商品としての医療保険は高い。それで、人口の1割に近い2800万人もが無保険での生活を強いられている。こういう階層が病や怪我のために入院を要するようなことになったら、いったいどうなるのだろう。アメリカの医療技術そのものは発達しているが、それは富裕層のニーズにのみ応えがちであって、国民の多くは恩恵を受けられないでいる。加えて医療訴訟などを取り巻いて、莫大なサービス関連業が渦を巻き、それがまた保険料を高くしてしまっている。
Ⅵ それでもアメリカは膨張を続ける
アメリカと中国のGDP構成比を比べてみる(図10)。
アメリカの一次産業と二次産業の占める割合は目立って少なくなっており、それと反対にサービス関連業が80%ほどを占めて圧倒的に高くなっている。前にも述べたが、例えばアメリカのネット関連サービスは生産性が極めて高く、文字通り地球にネットを掛けたように四六時中を稼働し、世界中から利益をむしり取って来てはアメリカのGDPを支えているのである。これからの何年間もアメリカ経済は堅調に成長を続けるだろうと予想されている(図11)。
GDPが拡大しつつありながら、その一方で平均寿命が短くなり、乳幼児の死亡率が目立って高いという社会は、どう考えても捻じ曲がっている。サービス関連業がカーテンのようになって、実態をくらましてしまっているのであろう。
アメリカ国民は、一見フランクで実際的に見えながら、実のところ他の国民よりもロマンチックであるらしい。努力すれば「アメリカンドリーム」なるものを均等に手にすることが出来るのだと信じている節がある。ドリームが訪れなかったのは自分の努力が足らなかったために神に選ばれなかったのであるとし、それを慰めるためになけなしの金を払ってライフル銃を買って撫でまわし、ジャンクフッドで空腹を埋め合わせようとする姿が目に浮かぶのである。
万物がそうであるように、「市場原理主義」も完全なものではあり得ない。機会の平等を謳ってはいるが、もたらされるものは恐ろしいまでの富の偏在なのである。正確な言い回しではないかもしれないけれども、彼の鄧小平はこんなことも言っていた。「計画経済にも市場があるように、市場経済にも規制は必要である」。
Ⅶ アメリカは何処へ行く
今のアメリカは、充分に強いところを持っている。
世界には180種類もの通貨が流通しているが、国際的な売買や資金のやり取りをしようとしたら、国際的に認められている基軸となる通貨に換算して価格付けをし合わないと取引はスムースに流れない。
その「基軸通貨」は長い間「英ポンド」であったが、第二次世界大戦後に英国経済が退潮するに伴って「米ドル」に替わった。現在アメリカのGDPが世界に占めるシェアは20%ほどであるが、国際為替取引において米ドルが絡む取引高は実に80%を超えている。さらには、国際貿易においてアメリカが占めるシェアは10%ほどであるが、世界の輸出入品のおよそ半分はドルで価格付けされている。利便性からも、国際的な流通や評価には基準となる通貨を介した方が分かりが良いわけで、国際機関が公表している評価もドルベースで算出されている。つまり、GDPや国際貿易の実態に比べてドルの存在は圧倒的に大きく、地球を大きく包み込んでいる(図12)。
さらに、米国企業の雄GAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)の勢いはとどまるところを知らず、例えばグーグルの検索エンジンは95%のシェアを占め、フェイスブックの1日当たり利用者は世界で20億人を超えるまでになっている。それこそ一刻も休むことなく膨大な個人情報を集めて積み上げ、分析し、行動を予測し、影響を与え続けており、これもイメージとしては地球を大きくラップアップしている。
にもかかわらずトランプ政権は、グリーンランドを、カナダを、パナマ運河を、ウクライナの地下資源を欲しがる。どうしてそんなに焦るのだろう。どこへ行って何をしたいのであろう。アメリカが今掲げなければならないのは「MAGA」ではなく「KAGL(Keep America Great Long)」という守りの姿勢であっていい。実際、守りにシフトしなければいけない事態が既に始まっているのである。
トランプ政権の本音はおそらく、おそらくというよりもかなりはっきりと、「脱規制」にある。今こそチャンスとしてなりふり構わずに、AI関連技術や宇宙開発技術のトップの座を自分のものにしたいと焦っているのであろう。つまり、次の世界を席巻したいのである。
世界のGDPの大きさをブロックごとに分けると、EU諸国、アジア諸国、アメリカ大陸諸国のそれがほぼ同じほどの大きさで並んでいることが分かる(図13)。10年ほど前の2016年のデータであるから、最近急成長しつつあるインドやASEAN諸国の動向を加えると、現在のアジア諸国の描く円は一回り大きくなっており、さらに10年先を予想すれば、アジア諸国のGDPが最も大きくなる可能性が高い。
GDPの大きさばかりではなく、その内容も急速に変化しつつある。例えば、中国版GAFAMとして注目されているBATH(バイドウ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)に代表される中国の情報通信関連企業がこのところ急成長しつつあり、例えばファーウェイが提供する5G通信設備は世界シェア35.7%というトップに躍り出るに至っている(図14)。
BATHの時価総額は2020年の評価でGAFA の3分の1ほどまでに達しており、ちなみに、これは日本の国家予算の2年分以上にも相当する。
2025年1月には性能の卓越した生成AIモデルをアメリカの同類会社の10分の1ほどの低コストで開発し、しかもそのノウハウを世界に公表するという余裕さえ見せた。中国は他国の技術やサービスを模倣しない独自の事業を展開しながらアメリカを猛追している。
中国の情報通信関連企業の追い上げと並行するかのように、基軸通貨であるドルを巡る動きも、殊にロシアによるウクライナ侵攻以来加速している。
ロシアへの経済制裁の実効性を上げるために、アメリカは国際決済システムに働きかけて、ロシアがドルを介しての貿易決済ができなくなるようにした。これを受けて、ロシアは欧米とは異なる歴史と価値観を持つBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)と協議して、国際決済での決済通貨をドル以外の通貨に換えるシステムの新設を模索するようになっている。中国はいち早く、人民元を決済通貨とする独自の決済システムを対ロシア貿易に適用するようになり、それは先進諸国の対ロシア経済制裁の効果をそれだけ殺ぐ結果をもたらした。ロシア大統領プーチンは、BRICS首脳会議の際にBRICSの共通通貨と仮定して刷り上げた紙幣を持っていたという。
基軸通貨としてのドルは、今のところ、がっしりと地球を包み込んで揺るぎないように見える。しかしそうした一方で、世界の分極化は加速度的に進行しており、BRICSあるいはその他新興国のドル離れは、ある時、巨大な地滑りになって現れる可能性もある。
仮に人民元が新しい基軸通貨としてドルに取って替わろうとしているとする。これまでドル建ての借金に苦しんできた新興国などには一挙に借金から解放される千載一遇のチャンスと映って、あえて雪崩に乗り移ろうとすることがあるかもしれない。
「俺が取り仕切ってやるからショバダイを出しな」「オトシマエをつけようじゃないか」とばかりに愚連隊さながらに振る舞うトランプ政権の下品が、アメリカ離れに弾みを付けてしまうかもしれない。今のアメリカはぬけぬけと嘘も言う。
Ⅷ 私たちは何をしているか
もう一度(図13)を見てみる。
似たような大きさの円が3っ並んでいるのを見ていると「多様性」ということが迫ってくる。みんな懸命なのである。
ヨーロッパの国々はヨーロッパなりに、かつて植民地時代に後進の国を搾取したツケが廻ってきた形で移民問題などで揺れているけれども、殊に北欧の国々は、比較的大きい政府、タフな累進課税、高い社会保障制度などを民意によって選択しており、市場経済をバランスよく修正している。毎年のように「幸せな国」のトップに名を連ねているのは、その成熟度の証であろう。
アジアには、人類のおよそ60%が住んでおり、多く植民地支配というくびきから解放されてから、それぞれの事情を抱えつつも成長している。日本を含めてアジアの人々は、とりわけ緻密な作業をむらなく続けることに長けているようであり、そうした特性を活かして頑張っている。
そして3っの円の大きさを合計すると76%ほどになるが、それ以外のGDPが24%ほどあるわけであり、それは世界中に散らばっている国々の人々の生業を集積したもので、ちょうど第4の円ほどの大きさになるであろう。地球号ではすでに、「多様性」と「相互依存」こそがキーワードであることを一目瞭然にしている。
そうした中で、日本はどのようにしてあるのだろう。
かつて、「東日本大震災」が日本を襲った有様を固唾を飲んで見入った世界中の人々のうちには、「日本は大丈夫か」と案じた人も多かったと思われる。現に隣国の韓国は「日本沈没」という見出しを付けて報道した。
甚大な被害を被ったけれども、日本は沈没しなかった。第一次オイルショック、第二次オイルショック、リーマンショックでも大きなダメージを受けたが沈没しなかった。
OPEC諸国の禁輸措置で引き起こされた1973年の第一次オイルショックは、一滴の原油も産出しない日本の石油価格を一挙に4倍に暴騰させ、長く続いた高度成長期を終わりにさせたというような衝撃では済まなかった。ほとんどパニックをもたらしたが、官民を挙げて「省エネ」に取り組み、効率よくエネルギーを使ってエネルギー効率の良い物を作り、それを賢く使う方法を追求した。こうした積み上げがあったからこそ、第二次オイルショックにも耐えられたのだと言えそうである。
資源の乏しい国の宿命であるだろう。「源流から河口まで」・・・資源に限ったことではなく、原料の採掘や調達、加工製造、流通、販売、消費に至るまでを、国をまたいで最もスムースに循環するように工夫する。出来るだけ多くの国々に命綱を懸け、資源の調達先を分散させてバランスをとる。そうしていないと、日本は浮いていられないのである(図15)。
国際的に評価の高い「総合商社」のように、日本は沢山の国々に通用するように外貨を準備し、投資をしている。それは「対外純資産」として計上されるが、2023年は471兆円(国家予算の4年分)を超して30年以上にも亘って世界一である。その投資先の筆頭がアメリカであるのは皮肉である。
要するに、食料の自給すらままならないながら、それ故に、日本は踏ん張っている。
Ⅸ 私たちはどうすればいいか
残念なことに現在、本来は世界をリードして行くべきいわゆる大国は揃って品格に乏しい。品格に欠けるどころか、アメリカは愚連隊に、ロシアは押し込み強盗に、中国は悪徳不動産業者のように見えることさえある。
そんなアメリカの強引な要求に対して報復的な対抗手段をとるには、広大な国土と資源を基盤にした強い基礎体力が必要であり、そうした国は上にあげた大国を除けばカナダとオーストラリアほどに限られるであろう。
日本にできること、日本がしなければならないことは自然に決まってくるように思われる。
第一に必要なのは、高品質な製品を勤勉に作り続けるという覚悟。
聳え立つ関税の壁を乗り越えてでも選んでもらえるためには、仕入れた資材に一段と優れた付加価値を付けて納得してもらわなければならない。かつての「第一次オイルショック」時の合言葉は「省エネ」であった。今回のそれは製品の質を変えるほどのものでありたい。トランプの恫喝は国難とも言われるが、あたふたする前に必要なのは心掛けの確認である。
第二には一層の投資とマーケッティング。
この国を襲う災害は甚大で抗い難いことが多いせいか、人々の自然に対する姿勢は独特である。自然は征服すべき対象ではなく、その良いところを身近に取り入れて親しむべきものだとする。街づくり、建築様式、庭園、盆栽、茶道、華道、日本料理、・・・日本の独自性を自信として改めて投資したい。
現在の日本の輸出先は、中国を筆頭にしたアジア諸国向けが58%を占めて最大である(図16)。
アジア諸国への輸出増も期待できるが、EU、その他、といった国々へのシェアを増やすことも可能であろう。殊に中東地域に対しては大量の石油を輸入していることから貿易収支は常に赤字である。真面目で控え目な在り様こそがブランド性を高めてくれると信じて、これを修正する工夫も凝らしたい。
Ⅹ そして結論の結論
トランプ政権は遠からず必ず行き詰る。何もかもぶち壊して、時に力のある者の欲するままに任せるという「規制外し」が本音である限り、アメリカ社会の歪みは是正されるわけはなく、つまり、富の偏在は一層きわまり、ついに沸点を迎えずには済まないだろうからである。外に向けられた傲岸な要求に対しては、我が国としては、したたかに対応を先延ばししているのが賢明。世界と共存する能力を高める唯一の手段は一層の真面目で控え目な取り組みであると信じながら。
長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。
身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。
うわあ!
一冊の本の内容に等しいブログの記事!
朝から仰天してしまいました。
痛快、納得、共感。
ゆっくり噛み締めて拝読いたします。
先生、ありがとうございます
GWが終わり鬱々とした気分でしたが
先生の探究心、パワーを目の当たりにして俄然勇気が湧いてきました。
感謝!!
気温の変化が激しい昨今、どうぞご自愛ください
北海道は山桜が満開です。
相変わらず、朝がお早い!
図がスケッチ風で乱暴でしたが、、、ありがとうございます。
トランプは愚連隊風ですが、、、今度はぐんと身近で直接胃袋にかかわることで、どうしてコメの値段が下がらないのかが気になっています。
備蓄米を何度も放出しても、ズブズブとどこかに吸い込まれてしまいます。
山桜は良いですね。ソメイヨシノはきれいですが、どんと咲くのがちょっと。
お元気でお過ごし下さい。