ヒトの集団の性質

チンパンジーは群れる。ヒトはもっと群れる。群れた時に、ヒトはその中でどういう相互関係を作るのだろう。そして同じような集団が出会った場合、どういうことが生じる傾向があるのだろう。

少年のグループについての研究

ヒトの集団の性質について、1969年にアメリカの社会心理学者M.シェリフらによって行われた有名な実験がある。

  ・・・10人ほどの少年(11〜12歳)のグループをキャンプに連れてゆくと、1週間ほどで互いの間にルールや役割が定まって安定してきた。
そのタイミングで、実は同じような少年のグループが近くで活動していることを告げられると、少年たちはまだ見ぬ相手に敵愾心を燃やし、「われわれとやつら」という自集団中心の仲間意識を高めていった。
ここで、2つの集団が遭遇させられ、賞金付きで野球や綱引きなどの競争的なスポーツをさせると、互いに対する敵対感情がさらに高まり、団旗を燃やしあうといったことまでがなされ、相手をやっつけるための相談や役割の再編がされ、これまでは乱暴者で低い位置にいた少年がヒーローになったりした。

2つの集団を融和させることが試みられた。まず、2つの集団が映画や花火や食事などの楽しい時間を一緒に過ごす友好的な接触機会が設けられたが見事に失敗におわった。罵り合いや残飯の投げ合いなど、むしろ敵対感情を助長する結果となった。
そこで、2つの集団が協力しなければ達成できないような課題が設定された。キャンプ生活には必須である給水が止まってしまったために、2つの集団が協力して故障個所を探し出したり、食料供給車がぬかるみにはまったのを力を合わせて救い出したりという共同作業である。すると、徐々に罵り合いや小競り合いは減ってゆき、敵対的感情は友好的なものへと変わっていった。3週間に及んだキャンプの最後には、集団ごとに別々のバスではなく、一緒に乗って帰りたいと言い、その途中では一方の集団が試合で得た賞金の残りで飲み物を買い、もう一方の集団と分け合うという場面も見られた・・・

シェリフらは同様の実験を3回繰り返し、賞品などの希少資源を巡る競争が集団間の葛藤を引き起すことを示し、その葛藤の低減のためには、単なる集団同士の接触ではなく、「上位目標」を達成するための「相互依存関係」が必要であることを例証した。

この実験が示すもの

少数の少年たちが短期間に示した経過であるが、その中には、性や人種や宗教に関連する要素を除けば、ヒトというものの集団に広く共通して観られる多くのパターンが現われている。
あまりに簡明で、実験の記載の終わりにある「…賞品などの希少資源を巡る競争」を「…石油やレアメタルなどの資源を巡る競争」と置き換えれば、問題の対象となる集団の規模はたちまち民族や国家にまで拡大し、その間の葛藤を低減するためには「平和の祭典オリンピック」などは無力というよりは逆効果であり、国家間の争い、つまり戦争をなくすためには、「宇宙人の侵略から地球を守る」といった上位目標を共有するより方法はないということになってしまいそうである。
 現実には人種や宗教などが絡み合うことから複雑になるけれども、この実験で示唆されているように、「上位目標」や「相互依存関係」がキーワードとなることは間違いなさそうだ。

上に引用した実験は、社会心理学的に計画されて見事な結果を得ているがいくらか立ち位置を変えて言い直せば、「互いの共感性や信頼感を醸成するには、競争的ではなく、相互補完的で生産的な課題に取り組んで、終始いっしょに汗を流し合うことが有効である」ということになるであろう。そしてそれは「人はその信頼するものからのみ学ぶ」ということに直結する。筆者たちが矯正教育や治療にかかわるに際して、常に心していたことである。

 

 

 

ロウボウ

投稿者: ロウボウ

長い間たずさわってきた少年矯正の仕事を退官し、また、かなりの時が経ちました。夕焼けを眺めるたびに、あと何度見られるだろうと思うこの頃。 身近な生き物たちとヒトへの想いと観察を綴りたいと思います。

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