人なつこい? ウラギンシジミ


熱中症の危険より・・・食い気

 今年(2024)の9月19日(木)、連日の酷い残暑を食い気で乗り切ろうというわけで、私はベランダで豚肉の一塊に煙を掛けてチャーシューに変えてやろうと目論んでいました。

 ふと気付くと、漬け汁の臭いに誘われたのか、燻製鍋の近くに置いたペーパータオルに1頭の小型のチョウがやって来ています。
 翅の裏が、アクリールガッシュ絵具を一刷毛で塗り上げたように、一面に鈍い白色をしていました。…私のうろ憶えによると、この手のチョウはウラギンシジミかヒメシロチョウのどちらかであるはずです。

ヒメシロチョウだったら大変なこと!

 これがヒメシロチョウだったら大変!
 ヒメシロチョウは、かなり前から都道府県の多くで絶滅危惧種も高いところに指定されており、東京都のレッドデータブックでも、例えば八王子市ではここ70年間以上も観察記録がないという希少種。河川敷などの草地が一度に広範囲が機械刈りされてしまうなどのことが生息域を狭めてしまったのだそうで、シロチョウの仲間内でもとりわけハタハタと儚げに飛ぶのだそうです。
 
 カメラを持ちに行って戻って来ても、お客さんは残っていましたから、先ずは1枚。邪魔なステンレスのトングをそっと取り除けても、そのままで居たので2枚目。

 背景がペーパータオルの白のうえに逆光なので、反対側に廻って撮り直そうと腰を浮かすと…飛び立って、ベランダの縁に置いた鉢の上で数回ホッピングしてから行ってしまいました。

ヒメシロチョウは幻 やはりウラギンシジミだった

 写真を見直すと、これは間違いなく、残念ながら、ウラギンシジミ。
 前翅の先端が鋭角に突き出しており、後翅の下縁も少し角張り気味。さらに裏面の一面の銀白色(「裏銀」が名前の由来)が、ブラックペッパーを振りかけた厚手の布を見るように丈夫そうだというのも特徴。
 大きさ19〜27mmでシジミ科最大。頑丈そうに見えるのにふさわしく、花の蜜をはじめ様々のものを求めて元気に飛び回り、幼虫がクズの葉を食べることから、最近増えつつあるのではないかとのこと。なるほど、クズがこのところ、ちょっとした林などは押しつぶさんばかりに独り勝ちにはびこっている様子は気味が悪いほどであるので、ウラギンシジミが増えつつあるというのは頷けることです。

好奇心いっぱい 可愛らしい

 それから3週間ばかりが経った10月13日(日)に、私は子犬を車に乗せて多摩川に行きました。秋になると、土手の斜面に機械が入って雑草が刈り取られているのが例年のことですが、この年は街の真ん中、それも市役所付近の街路樹の枝が落下して死者が出るという不幸な事故があり、そのために危険と思われる街路樹の伐採という喫緊の仕事が優先されて、やむを得ず、河川敷の手入れは後回しとなったようでした。
 私は自分と子犬が川に抜けられるだけの幅を細々と刈り取ろうとしました。このまま冬になると、雑草の種子がヒッツキムシになってワンコに取り付いてしまってドタバタするのを避けたいと思ったからです。

 気が付くと、とりあえず地面に投げ出しておいたカメラに、ウラギンシジミが止まっていました。翅がわずかに開き気味で、翅表のオレンジ色が窺えました。

・・・あらためて、私がカメラをいかに乱雑に扱っているのが分かってびっくりものです。雨に当たったり、落としたり、こすったり、埃だらけ、傷だらけ。それでも奇跡的に壊れません・・・。
 そんな私のカメラの何が気になるのかな? いくらなんでも、おかしな臭いまではしないと思うのだけど。

 ダイヤルやらファインダーやらをためしすがめつし、ようやくカメラを離れると、ウラギンシジミは私の周囲を飛び跳ねるように5・6回も浮き沈みしてから、脇に聳えているニセアカシアの梢を高々と越えてどこかへいってしまいました。

この秋3度目の出会い

 それから2・3日後の午後、玄関先でエゾマツの盆栽に水を掛けていると、独特な翅のきらめきと飛び方からウラギンシジミと知れるチョウがやって来て、エゾマツと水しぶきと私との間で、長々とダンスを披露してくれました。人なつこいのです。

 それからまた数日後のこと、私は子犬の好物の牛のヒズメにデスクグラインダーで切り込みを入れていました。ワンコがもう一度しゃぶり直せるようにするためです。半ば焦げた骨粉が飛び散ると、先ずは子犬が駆け寄って来て鼻をヒクヒクさせました。
 次に現れたのが、なんと、オオスズメバチでした。骨粉の舞う中にホバリングさながら、頭をこちらに向けながら、黄金の狩人は浮いたり沈んだりしておりました。

 ウラギンシジミもスズメバチも、燻煙や下ごしらえの漬け汁、そして骨の香りなどが好きなのだろうと思います。
 一方は、見るからにおどろおどろしく獰猛で、一方は可憐なのですが、似たようなな物を好むとは…生き物というものは不思議です。

 ウラギンシジミ